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死のシグナルを伝える

Nature Reviews Immunology

2003年10月1日

抗原に対して、充分な免疫応答を開始するかどうかは、微生物の産物の有無といった環境的な要因によっておおむね決まる。こういう産物分子は、危険性のある抗原の存在を免疫系に知らせる警戒シグナルとして働くが、その多くは樹状細胞(DC)を刺激して成熟させると考えられている。死にかけている細胞は、抗原と一緒にマウスに注射してやった場合、同じように免疫系を刺激し、強力な細胞傷害性をもつCD8+Tリンパ球(CTL)の抗原に対する応答などを引き起こす。 死にかけている細胞中にあって、CTLの抗原に対するプライミングを促進するこの因子は、細胞質内に存在することがわかっている。今回、Shiらはクロマトグラフィーと質量分析法を使って、この効果をもたらす主要な物質の1つが尿酸であることを突き止めた。また、クロマトグラフィーで得られた活性のある細胞質内分画は、一緒に注射した抗原に対するCTL応答を引き起こすが、これと同じような応答が尿酸だけでも引き起こせることも明らかにされ、この結果の正しいことが確かめられた。またこういう分画、または免疫したマウスをウリカーゼ(尿酸の極めて特異性の高い分解を行う酵素)で処理すると、活性は著しく低下して、測定できるだけのCTL応答を起こすことができないこともわかった。 尿酸の産生量が増えるのは、死にかけている細胞で見られる一般的な性質であり、尿酸が産生されないマウスではCTL応答が対照動物に比べて相当度に低下する。だから、おそらく尿酸は、死にかけている細胞が作る重要な免疫活性化シグナルなのだろう。 水に溶かした尿酸は、in vitroでDCの成熟を惹起できなかった。しかし、尿酸一ナトリウム(MSU)結晶は、培養中の骨髄由来DCで補助刺激分子の発現を増大させたし、in vivoではCTLの抗原に対するプライミングを促進した。これとは対照的に、MSU結晶はDCによる抗原の取り込みに影響を与えることはなかった。今回の実験で使われた程度の濃度の尿酸はin vivoでは沈殿すると報告されている。従って、Shiらは、細胞死の際には、生産された尿酸濃度が局所的に充分高くなって、この内在性の代謝産物が沈殿するようになり、DCの成熟と活性化を促進するのだろうと考えている。もし、死にかけている細胞が宿主が許容しない抗原を含んでいたなら、そこで起こるDCの活性化はこのような抗原に対する充分な免疫応答を誘発することになるだろう。 この研究は、尿酸が免疫活性化の内在的な仲介因子であることを突き止めたものであり、尿酸が適応免疫系による監視に重要であることを示唆している。尿酸がこういう性質を持っているなら、一種のアジュバントとして作用して、ウイルス感染とか腫瘍とか、以前には免疫系が応答しなかった抗原に対する免疫応答を刺激する可能性がある。さらに、これらの研究は、関節にMSUが沈着したことから始まる炎症性疾患である痛風の病因解明にも重要である。また、今回の結果からは、尿酸が組織損傷に対する炎症応答で中心的な役割を務めている可能性も浮上してきたのである。

doi:10.1038/fake604

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