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Toll様受容体のない生活

Nature Reviews Immunology

2003年4月1日

Toll様受容体(TLR)ファミリーは微生物センサーで、これが発するシグナルは、さまざまな病原体に対して先天性免疫応答が起こるために不可欠な重要なものである。ただし、これはマウスでの話。何しろ意外なことに、最近Scienceに掲載された論文によれば、ヒトの場合は最も中心的なTLR情報伝達経路が生存に不可欠ではなく、この経路の果たす役割は予想以上に小さいことがわかったのである。

TLRは、微生物の種類に応じた特徴的な分子パターン、たとえばリポ多糖(LPS;グラム陰性菌)や二本鎖RNA(ウイルス)、マンナン(真菌)などを認識する。TLRやインターロイキン-1受容体(IL-1R)ファミリーの細胞質ドメインにはよく保存されたシグナル伝達モジュール(TIRドメイン)があり、TIRを含むアダプター分子を介して、IL-1R関連キナーゼ(IRAK)複合体(IRAK1、IRAK2、IRAKM、IRAK4からなる)を召集する。すると腫瘍壊死因子受容体(TNFR)関連因子6(TRAF6)が活性化され、これが核因子-κB(NF-κB)経路とマイトジェン活性化タンパク質キナ―ゼ(MAPK)経路の引き金となって、炎症誘発性サイトカインの分泌が起こる。

Jean-Laurent Casanovaたちのグループは、炎症応答が弱くて命にかかわらない感染を繰り返しおこす、血縁関係のない3人の小児患者の調査を行った。この感染の原因はいずれも化膿性の細胞外細菌で、回数が最も多かったのはグラム陽性菌の肺炎連鎖球菌と黄色ブドウ球菌だった。そのうち1人はTLR4のリガンドであるLPSに応答しないことがわかっていたため、この患者たちはTLR情報伝達経路がうまく働かないのではないかと考えられた。実際にこの3人の患者では、種々の白血球細胞がIL-1βとIL-18(IL-1ファミリーのサイトカイン)に応答せず、またTLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR9のリガンドにも応答しなかった。ただしTNFに対する応答は正常だった。このことから、これらの患者ではTRAF6(TLR/IL-1R情報伝達とTNFR情報伝達に共通)の上流に位置するTIR-IRAK経路に欠陥があることがわかった。

TIRを含むアダプター分子MYD88とTIRAPをコードする遺伝子や、IRAK1IRAK2IRAKMには変異は見つからなかった。しかし患者3人ともがIRAK4の機能喪失変異についてホモ接合だった。患者の繊維芽細胞の生化学解析から、NF-κB経路とMAPK経路のIL-1βに応じた活性化に異常があることが明らかになった。またこの繊維芽細胞に野生型IRAK4を導入すると正常な応答が回復し、このような患者の表現型はIRAK4の異常によるものであることが確かめられた。

IRAK4変異が原因で起こるこの新しい免疫不全症は、化膿性細菌に対する防御にTIR-IRAK経路が重要な特異的役割を担っていることを示す貴重な「天然の実験」である。なお、抗ウイルス作用をもつサイトカインであるβ-インターフェロンの生産につながる別のTLR情報伝達経路が、マウスで報告されている。ヒトにもこのような経路が存在し、それがこの3人の患者では正常だとすれば、この患者たちがウイルス感染を繰り返しおこさない理由が説明できるかもしれない。

doi:10.1038/fake599

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