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ゼブラフィッシュを透かして見えるもの

Nature Reviews Immunology

2003年2月1日

肉芽腫という組織構造は、マイコバクテリウム属の細菌感染の際に、細菌と宿主の間に起こる複雑な相互作用の結果生じることが多い。存在がわかるようになった哺乳類の肉芽腫では、マクロファージとT細胞の両方がそこに含まれている。そのため、肉芽腫の形成開始は自然免疫と獲得免疫のどちらによるものなのか、それは長い間わからないままだった。今回、ゼブラフィッシュを使った実験により、事態の真相が文字通り「見通された」のである。 ゼブラフィッシュの胚や、泳ぐようになった初期幼生は体が透明なので、病原体と宿主の相互作用をリアルタイムで観察するのには絶好のモデルといえる。成体となったゼブラフィッシュは、マクロファージとT細胞の両方を持っており、ヒトの結核菌(Mycobacterium tuberculosis)と近縁のMycobacterium marinumに感染すると肉芽腫が形成されることがある。しかし、マクロファージしか存在しない段階のゼブラフィッシュの胚では、肉芽腫が形成されるのだろうか? Muse Davisらは、ゼブラフィッシュ胚の静脈内に蛍光色素でラベルしたM. marinumを注射してから、ビデオ顕微鏡による観察を行った。3日後になると、感染したマクロファージが血管外から組織に遊出し、さらにそこで集まっているのが観察された。集合したマクロファージはしっかり固まり、典型的な肉芽腫の形態を持つ塊を形成した。加熱殺菌したM. marinumSalmonella arizonaeでは、このような肉芽腫様の構造を形成させることができなかったので、この過程はマイコバクテリウムと宿主の相互作用によって特異的に開始されるものと考えられる。 M. marinumの遺伝子の中には、肉芽腫の中で活性化される性質を持つことがすでにわかっているもの(肉芽腫活性化遺伝子、GAG)あるいは、培養マクロファージへの感染後に活性化されることが知られている遺伝子(マクロファージ活性化遺伝子、MAG)がある。著者らは、形成された塊が本当に肉芽腫であることを確かめるために、これらの遺伝子の発現を調べた。M. marinumの持つ4つのMAGは全て、マクロファージが細菌を取り込むとすぐに活性化された。しかし、3つあるGAGは、感染したマクロファージが集合した後に初めて活性化された。従って、成体での肉芽腫形成の際に起こる細菌と宿主の間の複雑な相互作用は、胚でも起こっていることになる。 というわけで、肉芽腫の形成開始には、自然免疫に関わる因子だけで充分らしい。この結論は、この過程の主役をT細胞だとしていた従来の考えとは相容れない。今回の結果は、病原と宿主の間の相互作用について、その進行をin vivoで観察した、最初の例である。そして、この研究により、ゼブラフィッシュの透明な胚は、肉芽腫形成研究の解明につながるモデルとしての地位を確立したのである。

doi:10.1038/fake596

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