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酵母プロテオームの複合体を調べる

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2006年3月1日

タンパク質が細胞の中で単独で作用していることは稀で、大型の「分子機械」の構成成分となっていることが多い。タンパク質が作るこのような動的な複合体は生体機能において重要であり、複合体が仲介する反応ネットワークの解明は、生体系が変化にどう対応するかを解き明かすのに欠かせない。今回、Gavinらは酵母(Saccahromyces cerevisiae)のタンパク質複合体のゲノム全体にわたる完全なスクリーニングを行い、細胞装置の成分と構造について全く新規に特徴付けを行ったことをNatureに報告している。

タンデム親和性精製と質量分析法とを組み合わせて、Gavinらは酵母のオープンリーディングフレームの全部にタグをつけ、細胞内にある完全なタンパク質複合体の抽出を行った。抽出されたのは既知の複合体の73%にあたる。次に彼らは、タンパク質同士が一緒に精製される傾向を示す「socio-affinity」インデックスを調べて、タンパク質が複合体を作りやすいかどうかを定量的に表した。これはプロテオミクスのデータだけから物理的測定の近似値を再現した初めての試みである。そして、491個のタンパク質複合体が得られ、既知の複合体全てと比較が行われた結果、257個はまったく新規なものとわかり、以前から知られていた複合体のうち、新規成分を含んでいないものは20だけであることが明らかになった。

この精製法では、タンパク質は、ほとんどのアイソフォームに存在するコア成分と、一部のアイソフォームだけに存在する「付加成分」に分けられた。また、Gavinらは、付加成分中の2個かそれ以上のタンパク質が組合わさって常に共存しており、そうした組み合わせが複数の複合体中に見られる例がいくつかあることに気づいた。彼らはこのような組み合わせを「モジュール」と呼ぶことにした。Gavinらは、コアあるいはモジュールに含まれるタンパク質は概して、機能的にも物理的結合の仕方もとてもよく似ていることを見いだしたが、これはコア成分が機能ユニットにあたるという考え方の強力な裏付けとなるものだ。

今回の解析でわかった既知の複合体についての詳細な構造から、新たな情報が得られた。データから、細胞過程の動的な側面や、新規な調節機構が示唆され、モジュール間の機能のわずかな差を明確にすることが可能になったのである。さらに、コアとモジュールの間の結合に関する包括的な見方を示すマトリックス(行列)を求めることで、モジュールの機能を考察し、既知の多数の結合をはっきりさせることができた。

今回の結果からGavinらは、酵母には総計800個、ヒトではほぼ3000個のコア機械があるだろうと推定している。だが彼らは、こういう数字は、これらのタンパク質複合体コアが仲介している無数の細胞過程に比べると小さいことを指摘している。つまり、モジュール化の度合いが高いことは、時間的空間的調節を簡単なものにしながら、複数の機能を果たせるようにする効率的なやり方だといえそうだ。次の段階は、今回の研究で得られたデータを、全体を表す合理的モデルに組みこむことだろう。しかし、さしあたり著者らは、出発点となる酵母プロテオームの、きわめて興味深い様相を明らかにしたのである。

doi:10.1038/fake590

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