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ゲノムの時計を戻すには

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2006年1月1日

核を取り除いた卵細胞に分化した細胞の核を移植するという、核移植として知られている過程はクローン動物を作成する方法として有力だが、成功率が低い。Mechali、Lemaitreらは、分化した核を、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の発生初期に見られる速いDNA複製を行えるように適応させる決定因子を発見したことをCellに報告している。この発見は、核移植実験の成功率に大きな影響を与えるかもしれない。

Lemaitreらは、どうやれば分化した核をプログラムし直して、発生初期に特有の急速なDNA複製を行わせることができるか解明するために、分化した赤血球の核をS期で停止させたアフリカツメガエル卵抽出物中で、あるいは赤血球核をS期誘導に先立つ45分間、有糸分裂期(M期)の卵からの抽出物中で培養してみた。S期抽出物中で培養された赤血球核は未分化の精子核よりも複製効率がよくなかった。しかし、S期に先立って抽出物処理した赤血球核は未分化の精子核と同じくらいの速度と効率で複製を行った。これにより、分化した核の複製効率を上昇させるには、有糸分裂を経ることが重要なのだとわかった。

発生初期のアフリカツメガエル卵には多数の複製起点があるため、高速度での複製が可能となっている。赤血球核では複製起点の間隔はもっと離れているが、M期抽出物で処理するとこの間隔が狭まり、その結果レプリコンの大きさは精子核とほぼ同じになった。このレプリコンの構造変化は、S期誘導に先だってM期抽出物で前処理した赤血球核で見られるクロマチンループの短縮によって起こるのだろうと考えられた。このクロマチン構造はS期に入りつつある精子核で見られる構造に似ていた。

核が迅速なDNA複製を行えるように再編成されるのに、有糸分裂を経ることが重要なのはどういう理由によるのだろうか。赤血球核をM期抽出物で短時間だけ処理し、その直後にS期に誘導すると、DNA複製効率は低いままであった。このことは、M期からS期への移行が重要なのではなく、M期に有糸分裂期染色体が形成されることが重要であることを示している。実際、トポイソメラーゼII(TopoII)を欠くM期抽出物中では赤血球核の凝縮は起こらないが、赤血球核をTopoIIの阻害剤を含むM期抽出物で処理した場合には複製速度は速くならなかった。TopoII活性が阻害されると、DNA複製タンパク質であるORC2の移動・集合は低減する。つまり、TopoIIに依存して起こる有糸分裂期染色体の構造変化が、S期における複製タンパク質の効率のよい移動・集合に必要なのである。

発生初期のアフリカツメガエル卵では、有糸分裂期にin vivoでこれに相当するクロマチンのTopoIIに依存した構造変化が起っている。S 期には、レプリコンの融合によってDNAループの平均サイズが増大する。このような大きなループは有糸分裂期にはもっと小さなループとなり、それによってDNA複製タンパク質の結合数が増大して、DNA複製速度が上昇する。この有糸分裂期に起こる染色体の構造変化は遺伝プログラム組み直しの重要因子であり、核移植成功の必要条件なのである。

doi:10.1038/fake588

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