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全体像のつかみ方

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2003年12月1日

科学研究では、もっとも小さな問題に焦点が絞られることが多いから、全体的な展望を忘れないことは重要である。こういうことの一例が、実験条件を変えた場合にタンパク質の包括的な発現状態、また発現されたタンパク質の細胞内での存在場所がどのように変化するかという問題である。Natureに掲載されたO'SheaとWeismannらの2つの論文は、こうした疑問に答える方法を与えてくれる。これらの論文で、彼らは出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeでのタンパク質の発現と存在場所に関する包括的な解析の方法について述べている。 ハイスループット技術と、6,234の注釈付けされたオープンリーディングフレーム(ORF)を含む出芽酵母の完全ゲノム配列が使えるようになったことで、真核生物のプロテオームの系統的解析が実行可能となった。しかし、1つの問題はこれらのORFにどうやってタグをつけるかということである。タグ付けにより、タンパク質の存在場所を指示するシグナルが壊れたり、あるいは過剰発現が起こるということもあり得る。こういうことが起これば、それが原因でタンパク質が本来とちがった場所に存在するようになるかもしれない。 この問題を克服するために、O'SheaとWeissmanらは相同的組換えを用いて、染色体上の本来の位置にある各ORFの終止コドンの直後のフレーム内に特異的なタグを挿入した酵母の融合ライブラリーを作成した。そして、包括的なタンパク質発現を調べるためには、TAP(tandem affinity purification)タグを融合させたライブラリーを作り、またタンパク質の所在について包括的に調べるために、緑色蛍光タンパク質(GFP)タグを融合させたライブラリーも作成した。これらのタグが各遺伝子で上流にある調節配列あるいはプロモーター配列を破壊することはないので、融合タンパク質は正常なものと同じふるまいをすると予想される。 TAPタグ付けをしたライブラリーを作成したことで、通常の生育条件下では酵母のプロテオームのほぼ80%が発現されることがわかった上、誤った注釈付けがされていた遺伝子を同定することもできた。注釈付けがなされていたORFのうちのほぼ1,500個は遺伝子産物の産生が見られなかったが、こういうORFの内のほぼ1,000個はおそらく、特殊な条件下で機能するタンパク質をコードしているものと考えられた。また、ほぼ500個はコドン構成の特徴が真正の遺伝子のものとは異なっていた。 TAPタグ付けをしたライブラリーを用いたことで、タンパク質の量が細胞あたり50分子未満から100万分子以上までと幅があることもわかった。つまり、必須のタンパク質やほとんどの転写因子を含めた多くのタンパク質が、他のプロテオミクス手法では検出できない程度の低濃度で存在していることになる。さらに、得られた結果をメッセンジャーRNAに関する他の研究結果と比較することから、タンパク質:mRNAの比は平均して4,800とわかり、この値はmRNAの存在量が変動しても意外なほど一定であった。このことは、mRNAとタンパク質の存在量の間に密接な相関関係があることを示している。 GFPタグをつけたライブラリーを使ったことで、O'SheaとWeissmanらは4,156のタンパク質(酵母プロテオームの75%に相当)を細胞内の局在場所により22のグループに分類した。蛍光顕微鏡の分解能には限界があったが、この問題はGFPタグをつけたタンパク質だけの局在場所と、GFPタグ付きタンパク質と赤色蛍光タンパク質をタグとした参照用タンパク質とが一緒に存在する場所の両方を可視化することで解決された。以前は、酵母プロテオームのほぼ30%を占めるタンパク質について局在場所がわかっていなかったのだが、今回の作業によりそれらの存在場所についてのデータが得られたのは特筆すべきである。 タンパク質の所在に関する今回の包括的な解析は、遺伝や転写、またタンパク質同士の相互作用という観点からデータの解析が行われた場合、「転写の共調節の論理を明らかにし、真核細胞内の小器官内、あるいは小器官の間での相互作用について総合的な考察を与える」のを助けることになろう。O'SheaとWeissmanらの発表した今回の2つの論文は、真核細胞におけるタンパク質の包括的な発現とその局在について、今まででもっとも完全で、生理的な意味でも適切な見解を与えてくれたのである。

doi:10.1038/fake562

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