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痛みを紛らす

Nature Reviews Neuroscience

2006年2月1日

 脳は、感覚認知や随意運動などのさまざまなプロセスを、意識的な思考に頼らずに支配している。個別の脳領域がもつ特定の機構の活性化を意図的に支配することができるようになれば、疾患の治療に大きな影響があろう。このほど、少なくともひとつの脳領域が局所的に、しかも効果的に制御可能であることを、疼痛を研究する米国のグループが明らかにした。

 慢性疼痛は患者数が多くコストがかかる医学的問題であり、十分な緩和が得られない患者が多数存在する。研究では前側帯皮質(rostral anterior cingulate cortex;rACC)が疼痛の知覚および調節に関与していることが示唆されており、deCharmsらはその活性化の制御が疼痛知覚の操作に利用可能かどうかの検討に着手した。

 試験では健常志願者および慢性疼痛患者の双方に関して測定が行われ、rACC活性化の情報がリアルタイム機能MRI(rtfMRI)で逐次捉えられた。被験者に線グラフおよび動画像を見せることにより、rACC活性化レベルのrtfMRIデータが得られた。この画像のフィードバックにより、健常被験者は2分間のなかでrACC活性を一旦上げたのちに下げる訓練を受けた。1分ごとに開始10秒後から30秒間、不快な熱刺激が与えられた。慢性疼痛患者もrACC活性の上げ下げを訓練したが、外部刺激は与えられなかった。

 訓練後、健常被験者はrACC活性を低下させる試験期間と比較して上昇させるときに疼痛の知覚が増すと答えた。rACC活性化を示す画像なしで同様のさまざまな訓練を受けた対照群は、疼痛知覚の制御が大幅に小規模であり、疼痛強度のばらつきも小さかった。

 慢性疼痛患者はいずれも訓練後にベースラインの疼痛レベルが大きく低下し、50%を下回る患者もみられたが、rACC活性化ではなく自律性のフィードバックが与えられた対照患者群は疼痛レベルの低下がはるかに小幅であった。

 リアルタイム画像法による疼痛制御は将来に向けて臨床的な可能性をもっていると考えられる。脳のほかの領域でもこのような制御が可能であるかどうか、またこの技術にこのほかどのような応用法が考えられるのか、現時点では明確にされていない。

doi:10.1038/fake542

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