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ニワトリの進化を解明する

Nature Reviews Genetics

2005年1月1日

今のようにゲノム配列解読結果が次々と発表されるようになると、新たに解読されたゲノム配列について特定の統計値(例えば反復配列の占める割合や構成、G+C含有率など)が示されて当然という雰囲気になっている。しかし最近Natureに発表された3本の論文の著者たちほどプレッシャーを感じた人々はいなかったはずだ。なにしろ、ゲノム解析の対象となった動物が道を渡ってしまった理由を誰もが知りたがっているからだ。(訳注:”Why did the chicken cross the road?”は、これに対する答えの面白さを競う有名なジョーク。) ニワトリは、ゲノム配列が解読された最初の農業動物であるとともに重要な実験モデル系の一つで、免疫学、発生生物学や癌研究でノーベル賞クラスの研究の進展に役立ってきた。ニワトリのDT40細胞は、全世界の実験室で大型配列の相同的組換えに利用されている。また、ニワトリにおいて初めて同定されたタンパク質や遺伝子がいくつかあり、その一つがクロマチン結合因子CTCFで、その後、CTCFについては研究が進んだ。このほど、最新のニワトリゲノム配列が、国際ニワトリゲノム配列決定コンソーシアムによって発表されたが、ニワトリの10億の真性染色質塩基対のうちの95%以上がカバーされており、常染色体の10個の大染色体すべて、性染色体であるZ染色体とW染色体、そして28個の小染色体の3分の2が含まれている。今回の配列解読作業では、全ゲノムショットガン配列決定法と細菌人工染色体をベースとした配列解読法が役立ち、同じ号のNatureに発表されたWallis et al.の論文で説明されている物理地図とリンクしている。ニワトリのゲノムは、ヒトゲノムの約3分の1の長さで、反復配列の数が少ないことが主たる理由だ。最近配列解読された脊椎動物ゲノムの中で、ニワトリゲノムは、活性化したSINE配列が存在しない初めてのゲノムで、そのため、脊椎動物のゲノムに存在することが知られる散在性配列の最大カテゴリーの一つが欠けている初めての脊椎動物のゲノムとなった。 例えば、ニワトリの遺伝子研究では、食肉生産や産卵のために生産性を高めた品種の飼育と(感染症や周囲のニワトリをつつくというような攻撃的な行動を減らすことによって)ニワトリの健康や福祉を改善することに焦点が当てられてきた。そして遺伝学の研究者は、ゲノム情報を直ちに大規模な商業育種プログラムやいくつかの近交系のニワトリに応用してきた。このような応用研究にとっては、国際ニワトリ多型地図コンソーシアムによる3種類の家禽種と今回配列解読されたセキショクヤケイの比較解析は大いに役立つことだろう。それぞれのゲノム断片の配列解読を再度行うことで、国際ニワトリ多型地図コンソーシアムは、280万個を越える一塩基多型(SNP)を同定した。これらのSNPはニワトリに固有の形質とニワトリの病気と人間の病気に共通する形質を特定するために用いられることになっている。 ニワトリのゲノム配列が明らかになっても、「ニワトリが先か卵が先か」という問題は解決できないが、いくつかの非常に興味深い知見は得られる。国際ニワトリゲノム配列決定コンソーシアムによる解析結果によれば、ニワトリゲノムとヒトゲノムは今から約3億1,000万年前から独自に進化を続けているにもかかわらず、高度に保存された共通の塩基配列が、これまでに解読された遺伝子の場合よりも遠く離れた領域に存在しているというケースがいくつもあるのだ。最後にもう一つ、飲み屋で披露できるような薀蓄をお教えしよう。今回、ニワトリゲノムには数百種類の嗅覚受容体遺伝子が同定されたのだ。このことで、少なくとも遺伝子レベルではニワトリの嗅覚が非常に発達していることが明らかになり、この点に関する長年の論争に一石が投じられたのだ。ゲノミクスは研究成果が明々白々なので、論争にはなり得ないなんて誰が言ったのだろうか?

doi:10.1038/fake489

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