気候変動:将来の西南極氷床の融解は避けられないかもしれない
Nature Climate Change
2023年10月24日
21世紀を通して西南極の棚氷の融解が増加することが不可避になったという結論が、モデル化研究で示された。このことを報告する論文が、Nature Climate Changeに掲載される。この知見は、想定されるさまざまな排出経路において西南極での急速な海洋温暖化が既に動かせない状態になっており、気候変動緩和策は、最悪のシナリオを防ぐ役割しか果たせなくなった可能性があることを意味している。
棚氷は、氷河が海に流れ出す勢いを強めたり、弱めたりする上で重要な役割を果たしている。西南極氷床は、南極の海水準上昇の最大の要因となっており、西南極氷床の消失は、南極海、特にアムンゼン海との相互作用によって生じている。アムンゼン海は温室効果ガス排出量の削減によって恩恵を受けるという説があるが、この地域の温暖化に関するデータが少ないため、この説は詳細に検討されていない。
今回、Kaitlin Naughtenらは、地域海洋モデルを用いて、南極のアムンゼン海における海洋熱の将来変化、つまり海洋を原因とする棚氷融解の将来変化を評価した。その結果、さまざまな緩和シナリオ(パリ協定の1.5℃目標、パリ協定の2℃目標、代表的濃度経路〔RCP〕4.5を含む)の下で、気候変動による海洋温暖化が過去の3倍の速さで起こる可能性があることが明らかになった。Naughtenらは、この結果が、今後数十年にわたって気候変動緩和策がアムンゼン海の温暖化を遅らせる効果は限定的なものとなる可能性を示していると示唆し、気候の内部変動という自然な変動が気候変動による温暖化の量を制御する役割を果たしていくだろうと指摘している。また、Naughtenらは、棚氷の融解が増加する領域が、氷床を強化し、その安定性を維持するために非常に重要であり、温度上昇が棚氷の空洞につながっている中間的な深度(200~700メートル)に集中して、融解を引き起こすと推測している。
Naughtenらは、今回の研究が1つの海氷-海洋モデルの出力のみに基づいていることを認めた上で、西南極氷床の質量減少は水準上昇の一要素にすぎず、現在の温室効果ガス排出目標が達成されれば、南極の他の地域で大量の氷量減少が起こる可能性は低いと指摘している。そして、氷床が気候変動に十分に対応できるようになるまでに数世紀から数千年かかるため、どの排出シナリオを選ぶかは、21世紀を超えて、もっと先の将来にもっと大きな影響を及ぼす可能性があると結論付けている。
同時掲載のNews & Viewsでは、Taimoor Sohailが、「今回のNaughtenらの研究は、アムンゼン海の温暖化に関するこれまでで最も包括的な将来予測である。西南極における棚氷の融解を防ぐことができる時期は既に過ぎてしまった可能性が高いが、気候変動が海面水位に及ぼす真の影響は、さまざまな要因に左右されるだろう」と述べている。
doi:10.1038/s41558-023-01818-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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