がん:腫瘍の増殖抑制と治療抵抗性の低減が期待される抗がん剤
Nature
2023年8月3日
子宮内膜がんと皮膚がんのマウスモデルに治療用モノクローナル抗体NP137を投与すると、腫瘍の増殖と転移が阻害されたことを報告する2編の論文が、Natureに掲載される。一方の論文では、NP137を進行子宮内膜がん患者に投与するヒト初回投与試験についても報告されており、この抗腫瘍戦略にさらなる研究が必要なことが示された。
がんの進行過程で、上皮間葉転換という細胞の変化が起こる。上皮間葉転換は、腫瘍の発生、プログレッション、転移、そして化学療法や免疫療法への抵抗性に関連している。上皮間葉転換を阻害する治療法は、有望ながん治療法となる可能性がある。一部のがんにおいて、ネトリン-1というタンパク質の発現が増加することが知られており、腫瘍の発生過程に関与している可能性が示唆されている。今回、2編の論文で、このネトリン-1を阻害することで上皮間葉転換を阻害できることが明らかにされている。
第1の論文では、Agnès Bernet、Patrick Mehlenらが、ヒト子宮内膜がんにおいてネトリン-1の発現が上昇していることを明らかにした。子宮内膜がんのマウスモデルを使った実験では、ネトリン-1の活性を阻害すると、がん細胞死が誘発され、上皮間葉転換が阻害されることが判明した。これらの知見に基づいて、進行子宮内膜がん患者14人を対象としたヒト第1相臨床試験が行われ、NP137(ネトリン-1を阻害するモノクローナル抗体)の可能性が検討された。その結果、NP137を使った治療法の安全性が明らかになり、9人の患者に抗腫瘍応答が認められた。そのうちの8人は病状が安定し、1人は肝転移巣が50%以上縮小した。また、子宮内膜がんのマウスモデルに従来の化学療法薬(カルボプラチンとパクリタキセル)とNP137を併用投与すると、従来の化学療法薬の効能が改善した。
第2の論文では、Cédric Blanpainらが、扁平上皮がんのマウスモデルを使った実験を実施して、NP137を介したネトリン-1の阻害によって、上皮間葉転換を起こす細胞の割合が低下したことを報告している。この治療により、転移の数が減り、化学療法に対する腫瘍の感受性が上昇した。また、ヒトがん細胞を移植したマウスで、NP137を使った治療法の評価が行われ、ネトリン-1を阻害することによってヒトがん細胞の上皮間葉転換が阻害されることが明らかになった。
これらの知見をまとめると、治療抵抗性の克服という課題の解決に、ネトリン-1を阻害する治療法を使用できる可能性が示唆された。
doi:10.1038/s41586-023-06367-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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