物理学:運動量冷却が陽子線治療を改善する可能性
Nature Physics
2023年7月4日
サイクロトロンを用いた陽子線治療施設において、ビームの運動量の広がりを抑えることによって、大きなビーム損失を生じさせずに陽子の高い透過率を可能にする方法を報告する論文が、Nature Physicsに掲載される。この知見は、がん治療に用いられる陽子線治療の範囲を広げ、コストを下げる可能性がある。
世界中のサイクロトロン施設が、研究、放射性同位元素、がん治療のために高エネルギー陽子ビームを生み出している。陽子線治療は、他の種類の放射線療法と比べて、健常組織をより傷つけないようにできる。サイクロトロンは一定のエネルギーのビームを生み出すが、そのエネルギーは一般的に腫瘍の治療に必要なものより高く、エネルギー減衰器を使う必要がある。この減衰器によって、陽子ビームの運動量の広がりが大きくなるため、一連のスリットにビームを通して必要な運動量やエネルギーを持たない粒子が除去される。その結果、処置室に届く陽子が少なくなるため、治療を行う時間が長くなる。
今回Vivek Maradiaらは、スリットを、エネルギー減衰後の運動量の広がりを抑える特別に設計されたくさび状のものに置き換えることによって、このシステムの配置を修正している。Maradiaらは、運動量冷却と呼ばれるこの手法を用いて、陽子の透過率を従来の配置と比べて約2倍にした。Maradiaらは、この手法によって、低エネルギービームからの陽子の透過率を高められる可能性があると示唆している。
Maradiaらは、この運動量冷却手法は、処置時間を縮めることができる可能性に加えて、陽子線治療を受ける医学的条件を広げる可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41567-023-02115-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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