神経科学:コウイカの隠蔽擬態の複雑性
Nature
2023年6月29日
コウイカが皮膚に含まれる数百万個の色素細胞を制御して隠蔽擬態を行う機構は、これまで考えられていたよりも複雑だったことを報告する論文が、Natureに掲載される。今回の観察結果は、この擬態システムの柔軟性と適応性が非常に高いことを示唆しており、複雑な生理的過程である隠蔽擬態に関する新たな知見をもたらした。
多くの頭足類種は、自分の外観を周囲に合わせることによって隠蔽擬態することができる。これには、皮膚に含まれる数百万個の色素細胞(色素胞)の膨張を制御する運動系が関与している。皮膚模様の形成は、複雑な視覚的光景を解釈する数千個の運動ニューロンの本能的な協調に依存しているが、その機構はほとんど解明されていない。
今回、Gilles Laurentらは、自然の背景と人工的な背景を使って、ヨーロッパコウイカ(Sepia officinalis)の隠蔽擬態行動を調べ、20万点以上の画像を収集し、単一細胞レベルの分解能で皮膚の色が変化する過程をマッピングした。このマップのデータによれば、それぞれの皮膚模様は、非常に精巧で、同じ背景でも多数の異なる皮膚模様が形成されていた。隠蔽擬態を完成させるまでの経路には、連続フィードバックの一形態が関係しており、最終的な隠蔽擬態が「連続的なエラー修正ステップ」の産物であることも判明した。このことは、隠蔽擬態の過程は適応性が高く、決まった経路に従っていないことを示している。その例外は、頭足類が脅威刺激に反応して白くなるblanchingという防御機構だった。この過程は、急速かつ直接的に発生し、脅威刺激がなくなると、それまで行っていた隠蔽擬態に関する記憶が発現した。
以上の結果は、こうした生存機構がどのように相互作用するか、そして、色を合わせるという複雑な過程が細胞レベルでどのように達成されるかという点に関する貴重な知見をもたらしている。
doi:10.1038/s41586-023-06259-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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