神経科学:人工内耳によって聴力が改善する仕組み
Nature
2022年12月22日
ラットを用いた研究で、幅広く用いられている医療機器である人工内耳によって聴力が正常に回復する神経機構が解明されたことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の研究は、人工内耳の性能の向上に役立つ道筋を明らかにした。
人工内耳は、高度難聴者の聴力を回復させることができるが、人工内耳の装着者の反応には大きな個人差があり、人工内耳が作動してから数時間以内に発話を聞き取れる者もいれば、何カ月使用しても聴力がほとんど回復しない者もいる。今回、Robert Froemkeたちは、その原因を解明するため、16匹の難聴ラットに人工内耳を装着し、聴力回復に関連する脳活動のパターンを研究した。ラットの人工内耳に対する反応は、ヒトの場合と同様に個体差があり、今回の研究では、青斑核(学習に関連する脳幹領域)の活動から人工内耳に対する良好な反応を予測できることが明らかになった。青斑核を人工的に活性化させると、観察された個体差は消失し、この方法で青斑核を刺激された全てのラットは、人工内耳を装着してわずか数日後に音に対する反応を示した。
青斑核のニューロンは、神経調節物質であるノルアドレナリンを生成して放出し、それが多様な神経回路網の構造と機能に影響を与える。この脳の「再配線」は、学習の重要な特徴の1つだ。人工内耳がうまくいかない原因としては、青斑核が十分に働かず、脳がそれ自体を再配線する能力が低下したという可能性がある。従って、Froemkeたちは、この標的領域(青斑核)が働くように助ける戦略が、神経機能代替装置の働きを最適状態にするために役立つかもしれないという考えを示している。
doi:10.1038/s41586-022-05554-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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