Research Press Release

動物学:孤児のアフリカゾウのストレス度が社会的支援によって長期的に低下する可能性

Communications Biology

2022年7月15日

孤児でないアフリカゾウと家族集団で生活している孤児のアフリカゾウのストレスホルモン濃度を調べたところ、長期にわたって両者間に差が生じないことが分かった。この知見は、野生のゾウの群れにおいて、母親を亡くしたことに起因するストレスを社会的支援(ソーシャルサポート)によって軽減できる可能性を示唆している。今回の研究について報告する論文が、Communications Biology に掲載される。

今回、Jenna Parkerたちの研究チームは、ケニアのサンブル国立保護区とバッファロースプリングス国立保護区に生息する孤児の雌アフリカゾウ25頭と孤児でない雌アフリカゾウ12頭を対象として、ストレスに対する応答を調べた。ゾウの年齢は7~21歳で、孤児のゾウは、今回の研究の1~19年前に密猟や干ばつのために母親を亡くしていた。20頭の孤児は、母親の死後も同じ家族単位にとどまったが、5頭は、血縁関係にない家族単位に入ったか、他の複数の孤児と群れを形成していた。Parkerたちは、2015~2016年にゾウの糞便試料(496点)に含まれるグルココルチコイド代謝物の濃度を測定した。グルココルチコイド代謝物は、ストレスに応答して副腎から放出されるグルココルチコイドホルモンの分解によって生成される。

Parkerたちは、グルココルチコイド代謝物の濃度が、孤児のゾウと孤児でないゾウの間で差がないことを明らかにした。これに対して、同年齢のゾウの数が多い群れで生活するゾウは、孤児であるかどうかにかかわらず、グルココルチコイド代謝物濃度が低かった。この結果は、社会的支援が孤児のゾウのストレス度を下げるために役立ち、同じ年齢の仲間からの支援がすべてのゾウのストレス度を下げるために役立つ可能性のあることを示唆している。また、Parkerたちは、母親の死後に家族集団を離れた孤児のグルココルチコイド代謝物の濃度が、孤児でないゾウやそれまでの家族集団にとどまった孤児のゾウの場合よりも低かったことを明らかにした。この結果については、高いストレス度が長期間継続したことに応答して、副腎からのグルココルチコイド放出が抑制されたためではないかとParkerたちは推測している。

以上の知見は、家族関係や同年代の仲間が、野生のゾウの適応力と回復力にとって重要なことを明確に示している。孤児になったゾウを捕獲して、飼育する場合には、同年齢の仲間と一緒に飼育することや絆で結ばれた孤児のゾウの群れを維持することが、孤児のゾウのストレス度を軽減するために役立つかもしれないことが今回の研究によって判明したため、Parkerたちは、この知見を孤児のゾウの飼育管理に役立てられるかもしれないという見解を示している。またParkerたちは、絆で結ばれた孤児のゾウの群れをそのまま一緒に野生に戻すことで、これらのゾウが野生に復帰しやすくなるかもしれないと付言している。

doi:10.1038/s42003-022-03574-8

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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