遺伝学:青銅器時代のタリムミイラの起源に関する意外な知見
Nature
2021年10月28日
中国の新疆ウイグル自治区のタリム盆地で発見された、自然に保存されてきた青銅器時代のミイラが、遺伝的に孤立した地域集団に属していたことが、DNAのゲノム規模の解析によって明らかになった。このことを報告する論文が、Nature に掲載される。この知見は、タリムミイラが現在のシベリア南部、アフガニスタン北部、中央アジアの山岳地帯から移住してきた集団の子孫だとする従来の仮説と一致しない。
タリムミイラとこれらが属していた小河(Xiaohe)文化の起源については、ミイラが20世紀初頭に発見されて以来、議論が続いており、特にその理由となっているのが、ミイラの独特の外観とそれに関連した服飾技術と農耕技術だった。この点に関しては、3つの主要な仮説を巡って議論が続いている。つまり、現在のシベリア南部のステップ遊牧民の子孫とする仮説、中央アジアの山岳地帯出身の農民とする仮説、アフガニスタン北部の砂漠地帯のオアシスから移住してきた農民とする仮説だ。
今回、Chuongwon Jeongたちは、新疆ウイグル自治区南部のタリム盆地で出土した紀元前2100~1700年ごろのミイラ13体と、ジュンガル盆地北部で出土した紀元前3000~2800年ごろのミイラ5体のゲノムDNAを解析した。これらのミイラは、これまで新疆ウイグル自治区で発見された最古の人骨だと考えられている。ジュンガルのミイラは、ほとんどの場合、祖先がアファナシェボ(現在のシベリア南部にあるアルタイ–サヤン山脈のステップ遊牧民)にあり、地元の遺伝的影響も一部見られた。一方、タリムのミイラは、地元の祖先しか見つからなかった。7体のタリムミイラの歯の堆積物の中から乳タンパク質が発見され、このタリムの集団が酪農に依存していた可能性が非常に高いことが示された。これらの知見をまとめると、従来の移住説とは一致せず、地元のジュンガル系集団とアファナシェボからの移民の遺伝的系統が混合した可能性があるものの、タリム盆地の文化は遺伝的に孤立した地域集団から生じた可能性が非常に高いことが示唆された。ただし、Jeongたちは、この地域集団の文化は国際的であり、近隣の牧畜民や農民と密接な関係を維持していたと示唆している。
同時掲載のNews & Viewsでは、Paula Dupuyが、Jeongたちの論文に記述された重要な知見と、それが先史時代の内陸アジアに関する我々の知識に対して持つ意味をさらに掘り下げている。Dupuyは、結論として、Jeongたちが「小河文化の遺伝的起源という疑問に答えた。内陸アジアの青銅器時代を決めたダイナミックで多様な文化交流のパターンをさらに説明できるかどうかは、今後の学者たちの共同研究にかかっている」と述べている。
doi:10.1038/s41586-021-04052-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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