アルコールはマウスの脳で直接代謝される
Nature Metabolism
2021年3月23日
マウスにおいて、アルコール中毒が行動に及ぼす影響は、肝臓ではなく脳で生成されるアルコール分解物(代謝物)が原因である可能性があることを報告する論文が、Nature Metabolism に掲載される。この知見は、アルコールが脳にどのように影響するかを知る新たな手掛かりをもたらすとともに、アルコールが行動に及ぼす影響をよりよく制御する道を開く可能性がある。
運動障害など、アルコールがヒトやマウスの行動に与える影響は、アルコールの分解の際に生じる代謝物が原因と考えられている。そうした代謝物の1つである酢酸塩は、肝臓に多く存在するALDH2という酵素によって生成される。肝臓で生成された酢酸塩は、血流に乗って脳へと移動し、そこで抑制性の神経伝達物質であるGABAを介したシグナル伝達によって運動機能を障害する。
今回、Li Zhangたちの研究チームは、3つのヒトの脳試料と11匹のマウスを調べ、ALDH2が、平衡と運動協調性を制御する脳領域である小脳のアストロサイトと呼ばれる細胞で発現していることを見いだした。マウスの小脳のアストロサイトからALDH2を除去すると、マウスはアルコール摂取によって引き起こされる運動障害に対して抵抗性を示すようになった。通常は、アルコールを摂取すると脳内の酢酸塩レベルとGABAレベルが上昇するが、アストロサイトからALDH2を除去すると、この上昇が起こらなくなった。これとは対照的に、肝臓のALDH2を除去しても、脳内の酢酸塩レベルとGABAレベルに影響は見られなかった。これらの知見は、脳で作られる酢酸塩と肝臓で作られる酢酸塩では、運動機能への影響力に違いがあることを示している。
Zhangたちは、アルコール代謝が脳で直接制御されている可能性があり、このことは、アルコールの影響を変化させて、アルコール使用障害を治療できる可能性のある新しい標的の存在を示唆していると結論付けている。マウスで観察されたこのような機構がヒトにも存在するかを明らかにするには、さらに研究が必要である。
doi:10.1038/s42255-021-00357-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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