代謝:高齢者の血液中に腫瘍の増殖を促進する代謝産物が見つかった
Nature
2020年8月20日
タンパク質と脂質の代謝副産物の一種が、がん細胞の悪性特性(例えば、薬剤耐性や転移)を誘導し、そうした物質の血清濃度が、60歳以上の高齢者で高くなることを明らかにした論文が、今週、Nature に掲載される。この知見から、老化に関連した代謝調節の異常が、高齢者の発がんリスクとがん死リスクが高いことに関与している可能性が示唆された。
今回、John Blenisたちの研究チームは、ヒトがん細胞株を30歳以下の健康なドナー30人と60歳以上のドナー30人の血清で処理した。その結果、高齢ドナーの血清で処理したがん細胞が、遊走、浸潤、生存、転移の能力を獲得したことが明らかになった。また、高齢ドナーの血清で処理したがん細胞は、悪性がんに関連するタンパク質の濃度が上昇し、広く用いられている化学療法薬に対して抵抗性を示した。
次に、Blenisたちが高齢ドナーと若年ドナーから採取した血清に含まれる代謝物を分析したところ、高齢ドナーの試料では、タンパク質と脂質の代謝物であるメチルマロン酸(MMA)の濃度が有意に高いことが分かった。その後の遺伝子解析では、MMAの濃度が高いこととSOX4遺伝子の発現増加の関連性が認められた。SOX4遺伝子は、腫瘍のプログレッションと転移形成に寄与し、悪性がんに高レベルで存在している。SOX4の活性を阻害した場合、MMAは、がん細胞の遊走性と浸潤性を増加させず、化学療法薬に対する抵抗性を増強しなかった。
まとめると、今回の知見から、老化がMMAの血中濃度の上昇を促進し、その結果、がん細胞の遊走、浸潤、生存、転移が可能になることが示唆された。MMAの蓄積は、老化とがんのプログレッションの新たな関連性を示しており、新しいがん治療法の標的候補となる。
doi:10.1038/s41586-020-2630-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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