疫学:COVID-19の急速な感染拡大に寄与したと考えられる「表に出ない感染」
Nature
2020年7月16日
このほど行われたモデル研究により、中国の武漢で2020年1〜3月に発生したCOVID-19症例の最大87%が未発見症例だった可能性が明らかになった。この新知見は、米国とヨーロッパにおける最近の血清学的研究の結果とも整合している。未発見感染(あるいは未確認感染)には、無症状の患者、症状発現前の患者や症状が軽度の患者が含まれていた可能性があり、COVID-19の急速な感染拡大に大きな役割を果たした可能性が非常に高い。また、制限の解除が早過ぎれば、感染症の再燃につながる可能性があった。こうした研究結果を報告する論文が、Nature に掲載される。
COVID-19の患者のうち、無症状の患者、症状発現前の患者や症状が軽度の患者は、発見と隔離が難しいため、急速な感染拡大に重要な役割を果たしていると考えられている。集団発生の動態を完全に再構築できれば、COVID-19の未確認感染の割合と影響について解明を進めることができ、再発生を監視、制御するための取り組みに対して有益な情報を提供できるようになる。
今回、Chaolong Wangたちの研究チームは、武漢におけるCOVID-19集団発生の伝播動態を調べて、2019年12月8日〜2020年3月8日に検査で確認された3万2583症例のデータを用いて介入の影響を評価し、これらのデータを用いて2020年1月1日以降の集団発生をモデル化し、重要なイベント(例えば旧正月)と介入(例えば中央集権的な検疫と隔離)に基づいて、このモデルを5つの期間に分けた。
Wangたちの分析で、初期の伝播速度が非常に高く、推定再生産数(R0)は第1期が3.54で、研究期間の終わりには約0.28まで減少したことが判明した。この知見は、2020年1月下旬〜3月に実施された革新的で多面的な公衆衛生的介入によって、武漢の総感染者数が3月8日までに96.0%減少したことを示唆している。
Wangたちは、こうしたモデルを疫学的データに当てはめることによって、武漢で未発見感染が広範囲にわたって存在していた可能性の高いことを実証し、研究期間中のCOVID-19感染症例に占める未発見症例の割合の上限が87%で、下限は、全ての症例が第1期に発見されたという極端な仮定の下で53%と推定した。また、Wangたちは、検疫や社会的距離などの公衆衛生的介入が、未確認症例からのウイルス伝播を阻止し、集団発生を制御する効果的な方法だと考えられることを明らかにした上で、今後の研究(例えば、血清学的研究)によって、上記の推定値を確かめる必要があることを強調している。
次にWangたちは、これらのデータに当てはめたモデルを用いて、感染の第2波の発生確率を予測した。新規症例の報告が初めてゼロになった日から14日後に全ての制限を解除するとした場合には、症状が軽いか無症状の未発見症例が果たす役割のために、COVID-19が再発生する確率が極めて高く(最大97%)、制限解除から34日後に症例数が急増するという予測が示された。また、もっと厳しいシナリオ(14日間連続して新規症例が報告されなかった場合に全ての制限を解除する)では、再発生の確率は32%に低下し、症例の急増は、制限の解除から42日後まで先延ばしにできる可能性がある。
doi:10.1038/s41586-020-2554-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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