米国の退役軍人の心的外傷後ストレス障害の遺伝的解明
Nature Neuroscience
2019年7月30日
米国の退役軍人の遺伝情報を用いた大規模なゲノム規模関連解析が実施され、心的外傷後ストレス障害(PTSD)における心的外傷の「再体験」症状に関連する複数の遺伝子バリアントが特定された。今回の研究では、ストレスホルモン受容体をコードする遺伝子が関連している可能性も明確に示された。この結果を報告する論文が、今週掲載される。
一生の間にPTSDを経験する者は成人の約7%を占め、戦闘経験者のPTSD有病率が高い。PTSDの症状には、覚醒亢進、回避、心的外傷を引き起こした出来事の再体験などがあり、こうした症状によって日常生活が破壊されることもある。しかし、心的外傷を受けると必ずPTSDを発症するわけではなく、遺伝的性質などの素因がPTSDのリスクに影響している。
今回、Joel Gelernter、Murray Steinたちの研究グループは、米国のMillion Veteran Programの参加者16万5000人のデータを解析し、PTSDの再体験症状(心的外傷を引き起こした出来事に関する悪夢やフラッシュバックなど)の遺伝的関連を調べた。その結果、PTSDに関連する8つのゲノム領域が特定され、その中でストレスホルモン受容体をコードする副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン受容体1(CRHR1)遺伝子と関連している可能性も明らかになった。今回の関連解析は、ヨーロッパ系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人の両方のデータを使って実施されたが、有意な関連が認められたのはヨーロッパ系だけだった。この研究グループは、ヨーロッパ系アメリカ人のサンプル数が多かったことが原因だった可能性があると指摘している。
doi:10.1038/s41593-019-0447-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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