外傷による麻痺から足を踏み出す
Nature Medicine
2018年9月25日
下肢が完全に麻痺した患者が、脊髄への電気刺激とリハビリテーション療法を組み合わせた治療の結果、再び独力で歩けるようになった。
重度の脊髄損傷では、損傷より下に位置している脊髄回路(骨格筋と直接相互作用している)が運動をつかさどる高次脳中枢から機能的に切り離されて、慢性麻痺が引き起こされることがある。ヒトでは、脊髄の電気刺激がこうした慢性麻痺に治療効果があることが示されていて、このような刺激により筋肉の随意収縮が促進されて、立ち上がれるようになることもある。
K ZhaoとK Leeは今回、脊髄損傷後に完全な下肢麻痺が起こった患者が独力で歩けるようになった初めての例を報告している。これは、患者に脊髄電気刺激装置を埋め込み、研究施設内で課題特異的な多面的リハビリテーション訓練を行った、43週間にわたる研究の成果である。研究が終了した時点では、患者は足の筋肉を意図的に収縮させることができるようになり、これによって立っているだけでなく、歩行も可能になった。また、前輪付き歩行器を使って、トレッドミル上で両足で歩くこともできたが、うまく歩行するには、電気刺激装置による活性化が必要であった。
これは、慢性的休眠状態にあったヒト脊髄回路を再活性化して、運動を支えられるようした最初の成功例だが、歩行器を使って床を歩くには、バランスを維持するための訓練士の介助が必要だった。著者たちは、失われた運動機能がリハビリテーション訓練と電気刺激との相互作用によって回復する仕組みを調べ、損傷の種類や期間が異なる患者にもこの方法が適用できるかどうかを確かめるには、さらなる研究が必要だと考えている。
doi:10.1038/s41591-018-0175-7
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