【感染症】熱帯環境における炭疽
Nature
2017年8月3日
熱帯雨林に生息するさまざまな哺乳動物種の死因が炭疽であることが明らかになった。また、炭疽によってタイ国立公園(コートジボワール)内のチンパンジーの個体数減少が加速していると考えられ、公園内の個体群が絶滅する恐れも生じている可能性が、個体群統計学モデルによって示唆されている。この研究結果について報告する論文が、今週掲載される。
炭疽は、アフリカのサバンナ地帯のような乾燥生態系と関係していることが最も多いが、2001年に熱帯雨林の生息地(タイ国立公園)において野生のチンパンジーが致死性の炭疽様疾患にかかった事例が報告され、炭疽のような症状を引き起こすセレウス菌(Bacillus cereus biovar anthracis、Bcbva)が原因として同定された。しかし、Bcbvaを原因とする炭疽様疾患の疫学特性と典型的な炭疽との一致度については明確になっていなかった。
今回、Fabien Leendertzたちの研究グループは、26年間にわたってタイ国立公園で収集された哺乳類の骨と死骸とハエに由来するBcbvaの試料を集めた。Leendertzたちは、この試料から1996~2014年にわたるBcbvaの全ゲノム塩基配列(178例)を生成した。今回の研究で、これらの塩基配列について観察された遺伝的多様性の程度を他国で単離されたDNA塩基配列と比較したところ、サハラ以南アフリカでBcbvaが蔓延していた期間がタイ国立公園での蔓延期間より長かったことが示唆されている。Leendertzたちは、タイ国立公園で観察された野生動物の死亡例の38%がBcbvaと関連しており、サバンナ生態系での典型的な炭疽病の流行において報告された死亡率の最も高いレベルに匹敵することを明らかにした。サバンナ生態系では、有蹄類が炭疽事例の大部分を占めているのに対して、タイ国立公園では、広範な動物種(チンパンジー、6種類のサル、ダイカー、マングース、ヤマアラシを含む)がBcbvaによって死んでいる。
doi:10.1038/nature23309
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