【毒物学】「BPAフリー」プラスチックの健康影響評価
Nature Communications
2017年3月1日
Toxicology: Assessing the health impacts of 'BPA-free' plastics
一部の「BPAフリー」プラスチックの製造に用いられるフルオレン-9-ビスフェノール(BHPF)という化学物資が、妊娠中のマウスに有害な転帰をもたらす可能性のあることを示す研究論文が、今週掲載される。この研究では、市販の飲料用ボトルに含まれるBHPFが中身の飲料水に溶け出している可能性も示唆されているが、マウスのみで検査が実施されたため、BHPFがヒトの健康に負の影響を及ぼすことを示す証拠は得られなかった。
ビスフェノールA(BPA)は、プラスチック軟化剤の一種で、食品や飲料水の容器に用いられるプラスチックの製造に幅広く用いられている。ところが、BPAが溶け出して、容器内の食品に混入し、エストロゲンというホルモンの作用を模倣することが明らかになったため、こうしたエストロゲン活性を持たない別の化合物が代わりに用いられている。
今回、Jianying Huの研究チームは、市販のプラスチック製の飲料用ボトル(哺乳瓶を含む)に充填された熱湯からBPAの代替物質であるBHPFが検出されたことを報告している。そして培養細胞と10匹のマウスを用いてBHPFの検査を行ったところ、BHPFに抗エストロゲン活性(エストロゲンの作用を阻害する活性)が認められ、マウスの子宮の重量や仔の体重も軽くなり、一部のマウスは流産した。また、今回の研究では、習慣的にプラスチックボトル入りの飲料水を飲む中国人学生100人のうち7人の血液から微量のBHPFが検出された。ただし、これらの飲料用ボトルについてBHPFの検査を行っていないため、これらの被験者のBHPF濃度が高くなった過程は解明できていない。
以上の新知見からは、今後研究を進めてBHPFの安全性を評価し、食品や飲料水の容器に用いるプラスチックの製造でBPAの代わりに用いる他の化学物質の安全性評価もできるだけ行うべきことが示唆されている。一部の国ではエストロゲン活性を有する化合物のスクリーニングが行われているが、抗エストロゲン化合物のスクリーニングは日常的に行われていない。
doi:10.1038/ncomms14585
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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