スペルミジンは齧歯類で心臓の若さを維持する
Nature Medicine
2016年11月15日
ありふれた食品成分の1つがマウスで寿命を延長し、またマウスとラットで心血管系の健康を改善することが報告された。
スペルミジンは、全ての動物の体内で合成される代謝産物で、熟成したチーズ、マメ類、全粒穀物などの広範囲にわたる食品にも含まれている。以前の研究で、スペルミジンは酵母、ショウジョウバエや線虫などの単純な生物で寿命を延ばすことが見いだされている。この寿命延長効果は、スペルミジンがオートファジーとして知られる細胞過程を活性化するためであると考えられてきた。オートファジーは、細胞の構成要素の分解と再利用を可能にする。
今回、G Kroemer、S Sedej、F Madeoたちは、マウスの飲み水にスペルミジンを添加して常時摂取させると、寿命の中央値が延長されること、この効果はスペルミジン投与をマウスの中年期から開始した場合でも見られることを示した。また、スペルミジンは老齢マウスの心機能を改善したので、心臓の老化を遅らせることが寿命の延長の一因となっていると考えられた。オートファジーに遺伝的欠陥のあるマウスではスペルミジン投与による有益な影響は認められなかったため、この心臓保護効果は、オートファジーの活性化によるものと分かった。スペルミジンはまた、ラットで血圧を低下させ、心機能を改善することにより、心臓保護効果を誘導した。
著者たちはさらに、食餌に含まれるスペルミジンの摂取がヒトで有益な効果をもたらすかどうかも調べた。イタリアのBruneckという町に住む約800人に対する食事調査(いろいろな食品について食べた頻度を尋ねる)の結果からは、スペルミジンの摂取量が多いほど、心不全などの心血管疾患のリスクが低下するという関連性が明らかになり、この効果は特に男性で顕著であった。スペルミジン摂取量はまた、低い血圧とも関連が見られた。
これらの知見に基づいて、著者たちは、食餌に含まれるスペルミジンの治療効果を検討するためのより厳密な臨床試験の実施を計画している。
doi:10.1038/nm.4222
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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