【健康】グリア細胞の移植によるハンチントン病の症状軽減
Nature Communications
2016年6月8日
グリア細胞は、脳内の神経細胞を構造的に支えているが、健康なヒトのグリア細胞をハンチントン病(HD)のマウスモデルに移植したところ、運動協調性が改善し、寿命が延びたことを報告する論文が、今週掲載される。
中枢神経系に最も数多く存在する細胞型であるグリア細胞は、ハンチントン病の研究でほとんど注目されてこなかった。ハンチントン病は、遺伝性の神経変性疾患で、運動と情動と思考を制御する神経細胞が徐々に変性、脱落することを特徴としている。
今回、Steven Goldmanたちは、いくつかの実験を実施し、16~91匹のマウスの脳にヒトのグリア細胞を移植した。ハンチントン病の原因となる遺伝子変異を有するヒトのグリア細胞を健康な新生仔マウスに移植した実験では、これらのマウスが成体になった時にハンチントン病の症状に似た症状(例えば運動協調性障害)が見られた。一方、健康なヒトのグリア細胞をR6/2マウス(ヒトのハンチントン病に似た症状を示すマウスモデル)の新生仔に移植した実験では、マウスの運動機能と認知機能が有意に改善し、寿命も長くなった。
今回の研究は、ハンチントン病におけるグリア細胞の役割が従来考えられていたよりもかなり積極的である可能性を示唆しており、その結果、ハンチントン病の解明と治療可能性に関する新たな展望が得られた。ハンチントン病におけるグリア細胞の機能不全について解明を進め、こうした新知見をヒトの治療に生かせるかどうか、そしてどのように生かすのかという点を評価するためにはさらなる研究が必要だ。
doi:10.1038/ncomms11758
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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