Research Press Release

現在のような気候変動適応策への支出では巨大都市の物的資本を守れても人々を守れない

Nature Climate Change

2016年3月1日

先進国の都市において気候変動の影響への適応策に対して1年間に支出される額(対GDP比)は、貧困国の都市の場合よりかなり大きいことを報告する論文が、今週のオンライン版に掲載される。そうした支出は、世界で最も気候変動の影響を受けやすい人々が気候変動の最悪の影響を避けられるように支援することより資本を守ることと強く結びついていることが、今回の研究で示唆されている。

現在、世界の人口の半分以上が都市に居住しているが、主要な中核都市では気候変動の結果としての異常気象と水不足、エネルギー不足の危険が高まっている。

今回、Lucien Georgesonたちは、世界の10か所のメガシティー(人口300万人超、GDPランキングの上位25都市のいずれか、または両方を満たす都市)における気候変動適応策(例えば、排水系統の改善、護岸対策、インフラの回復力強化)への支出額を分析した。その結果分かったのは、2014/2015年に全世界で気候変動適応策に2230億ポンド(約33兆5000億円、世界のGDPの0.38%に相当)が支出され、先進国の都市での支出額が最も多いことだ。気候変動の影響を最も受けやすい貧困国の都市、例えば、アディスアベバ(エチオピア)、ラゴス(ナイジェリア)、ジャカルタ(インドネシア)での支出額はかなり少なかった。総額で最も多かったのがニューヨーク(米国)で、2014/2015年に約16億ポンド(約2400億円)の支出があり、1人当たりの支出額が最も多かったのがパリ(フランス)だった(約397.47ポンド、約59,621円)。これに対して、アディスアベバは、総額と1人当たりの支出額のいずれも最も少なく、それぞれ約1500万ポンド(約23億円)と4.71ポンド(約707円)だった。また、気候変動適応策への支出額の対GDP比は、先進国の都市が約0.22%で、開発途上国ではわずか約0.15%だった。(例外は中国の北京で、0.33%と最も高かった。)以上の証拠を総合すると、現在の気候変動適応策への支出が人々ではなく、資本を守るために行われていることが示唆されている、とGeorgesonたちは考えている。

気候変動適応策への支出は、世界経済の小さな部分にすぎないが、その割合は大きくなる可能性が高い。Georgesonたちは、気候変動の影響を最も大きく受けやすい開発途上国と新興経済国の都市で利用できる資金を十分に確保することを国際機関に求めている。

doi:10.1038/nclimate2944

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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