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量子物理学:「時間を逆転させる」ことで量子ダイナミクスを探る

Nature

2025年10月23日

Quantum physics: “Reversing time” to probe quantum dynamics

Nature

量子回路を操作して情報のスクランブルを逆転させる手法は、量子コンピューターの特性を解明し、性能の向上につながる可能性を報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。Google Quantum AIと共同研究者らは、超伝導量子プロセッサーにおける「非時間順序相関関数(OTOC:out-of-time-order correlators)」の測定結果を報告した。OTOCは、量子コンピューターの理解を深める手段となり、古典的な計算能力を超える性能を検証可能な形で示すためのツールとなり得る。

量子優位性(特定の有用なタスクにおいて量子コンピューターが古典コンピューターを凌駕する性能)を達成できるほど高性能な量子コンピューターの構築は、量子コンピューティングの長年の目標である。この目標の達成には、ノイズや欠陥の低減など数多くの課題の克服が必要であり、その一つがシステム構成要素の量子ダイナミクスを解析し、真の量子効果と古典的ノイズを区別することである。これらのシステムは、相互作用する要素の挙動が予測不可能になり、時間の経過とともに追跡が困難になるため、研究が難しい場合がある。特に、特定の瞬間に一部の要素のみを測定する場合に顕著である。潜在的な解決策として、時間反転の概念を活用する方法がある。システムに擾乱を与え、その擾乱が波及した後、システムを逆方向に走らせて情報の乱れを元に戻そうとし、この方法でシステム全体に関する情報を取得しようとするものである。

Hartmut Neven率いるGoogle Quantum AIと共同研究者らは、超伝導量子プロセッサーにおいて時間反転プロトコルを用い、高次OTOC(量子情報が多粒子量子系に広がる様相を研究するツール)を測定した。その結果、実験的観測量は、広がりと逆転のダイナミクスを通じてプロセッサーの大部分をサンプリングするのに十分な長い時間スケールにおいて、真の量子効果に敏感であり続けることが判明した。著者らは、この方法でOTOCを測定することで、古典計算ではアクセス不可能な量子システムの微視的性質が明らかになるとし、将来的に核磁気共鳴(NMR:nuclear magnetic resonance)のような堅牢な量子優位性の実証に、こうした多粒子測定を構成要素として活用する可能性があると述べている。

著者らは、本実証で使用した回路は「トイモデル(toy model)」であると指摘しつつも、この手法が実際の物理系に応用可能であることを示唆している。

Google Quantum AI and Collaborators. Observation of constructive interference at the edge of quantum ergodicity. Nature 646, 825–830 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09526-6
 

 

doi: 10.1038/s41586-025-09526-6

英語の原文

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