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若手研究者支援の新たな取り組み

リサーチ・アドミニストレーター協議会の2019年度年次大会で、早期キャリア研究者の国際化や共同研究を後押しするためのさまざまな施策が、シュプリンガー・ネイチャーや京都大学から報告された。

社会や経済のグローバル化が進み、気候変動や感染症などの地球規模の問題が深刻化するなか、研究者が取り組む課題も複雑さを増し、国境や分野を越えた共同研究の重要性がますます高まっている。国際共同研究による論文は、国内論文よりも引用率が高い傾向があることが報告されており、欧州のHorizon 2020をはじめ、コラボレーションに特化した助成金プログラムを提供する資金配分機関も増加している。

研究を主導する若手研究者の国際化支援は、政府が重点を置く科学技術政策の1つである。一方で、大学や研究機関、財団、学術出版社なども、独自の施策を打ち出している。今回、シュプリンガー・ネイチャーは、2019年9月に東京で開催されたリサーチ・アドミニストレーター(RA)協議会の年次大会で京都大学によるセッションに参加し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成をめざす若手研究者への支援や、効果的なコラボレーションの鍵が国内外のネットワーク構築にあることなどについて述べ、意見を共有した。また、若手研究者の研究活動や共同研究および成果の価値を研究コミュニティとして高めるための、効果的かつ積極的な方法についても紹介した。

若手研究者への支援

大学などのURAから構成される協議会は、人材育成や課題の共有や研究力の強化を目的として、2015年より年次大会を開催している。京都大学学術研究支援室が主催したセッションは、若手研究者の国際化を支援する広いネットワークを構築する機運を高めるために開かれ、国際的な学術出版社のほか、海外ファンド機関や国内財団からも含めて計6名が登壇した。

このような取り組みの背景には、被引用回数上位10%論文における国際シェア(占有率)において日本の順位が年々低下していることなど、日本の科学研究の国際競争力に対する危機感がある。文部科学省は、2019年6月に策定した「第6期科学技術基本計画に向けた提言」において、現状の相対的な研究力の低下や国際流動性の停滞が続けば世界から取り残されてしまう危険性を示し、打開策の1つとして国際共同研究の抜本的強化を掲げた。

京都大学URAの桑田治氏は、同大学がドイツ学術交流会(DAAD)と共同で2018年に設立したマッチングファンドを紹介した。「これまでも学内ファンドなどを通じて若手研究者を支援してきましたが、対象者が助教以上でした。新ファンドは、早い段階からの支援が国際的な研究ネットワーク構築とその後のキャリア形成につながると考え設立されました」と桑田氏は言う。

このマッチングファンドは、URAが海外資金提供機関と共同で立ち上げた初のファンドで、SDGs達成に貢献しようとする日独双方の博士課程学生から博士学位取得後5年以内までの研究者を対象に留学資金を拠出している。SDGsとは、世界の課題に取り組むことを目的とした共通の国際目標であり、2015年に193の国連加盟国によって採択されている。

シュプリンガー・ネイチャーでネイチャー・リサーチ編集開発マネジャーを務めるジェフリー・ローベンズは、出版社にとってもSDGsは重要なコンセプトであり、目標達成に向けて注力していると語った。同社は「SDGs Programme」を通じて、地球規模の課題に取り組む研究者への情報発信を強化している。

若手研究者への支援の例として、ローベンズはトレーニングプログラムを2つ紹介した。日本では、論文やプロポーザルの書き方、共同研究の進め方などは、各研究室で指導が行われるのが一般的で、正式なトレーニングを受ける機会が少ない。2017年に日本に導入されたNature Masterclasses のオンライン講座「Scientific Writing and Publishing」は、数十の短いレッスンで構成されるeラーニングコースで、ネイチャー・リサーチの編集者が動画やクイズを使い、論文の執筆や公開のポイントについて解説している。研究機関からの関心は高く、例えば北インドにあるチトカラ大学では、このコースを博士課程学生の必須教科として取り入れている。また、ワークショップ形式のプログラムであるNature Research Academies には、年間3,000人以上の研究者が世界各国で参加している。

パネルディスカッションでは、早期国際交流から若者が何を学んでいるかについて議論が交わされた。中谷医工計測技術振興財団で国際学生交流事業に携わる小川研之氏は、「学生の早期のころからの留学経験が、海外へのマインドセットを変えていく」と話した。日独の若者文化・ライフスタイル研究への助成をする山岡記念財団の雪野弘泰常務理事も、「若者のプレゼンテーション能力は向上しているので、後はいかに周りが機会を作るかが大切」と述べた。一方、ローベンズは、日本の若手研究者の大きな課題の1つに「自信のなさの克服」を挙げた。

効果的な共同研究のためのトレーニング

シュプリンガー・ネイチャー主催のセミナーでは、2019年9月末に公開されたNature Masterclasses オンラインの新しいeラーニングコース「Effective Collaboration in Research」について説明が行われた。このコースでは、国際的な共同研究を行ううえで必要なコミュニケーションやデータ管理などのスキル習得と自信の育成を目指す。

「世界各地でワークショップを開催して気付いたことですが、日本の研究者はシャイであるがゆえに国際的なコラボレーションを始めるのが難しく、謙虚であるがゆえに自身の研究成果を強く主張することに抵抗があるように思えます」とローベンズは言う。「私たちは、日本の若手研究者の国際競争力を高められるように支援していきたいと考えています。日本の研究の多くは、世界トップクラスのサイエンスに値するのですから」。

ローベンズはまた、すべてを自身で管理したい研究者や、情報共有が困難な研究者とどのように協力関係を築けばよいかについても語った。「多くの問題は、相手に対する敬意があるかどうかに行き着きます。自信と信用を確立することができれば、問題が起きても共同研究者と理解し合い、共通の研究目標を達成できるでしょう」とローベンズは述べて、講演を終えた。

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