注目の論文

【気候科学】厚い海氷が氷山の流出を防ぐメカニズム

Nature Communications

2017年3月1日

Climate science: Thick sea ice prevents iceberg cascade

融解する氷河の底部に厚い海氷があると、氷河のカービング(氷河の末端で氷の一部が氷山として分離して海に流れ出すこと)を防ぐために十分な力が加わることを明らかにした論文が、今週掲載される。この新知見は、海氷が薄くなるにつれて氷河のカービングの発生可能性と氷河の海水準上昇への寄与が高まることを示している。

グリーンランドと南極では、海洋に流れ込む数多くの氷河でのカービング速度が上昇してきており、これが海水準の上昇速度に強い影響を与えることがある。このカービング速度の上昇は、氷山メランジェ(氷河の前面で浮遊する氷山と海氷の密集体)の急激な破壊に関連することが明らかになっており、氷山メランジェが存在すると氷河のカービングが抑制されるという仮説が提示されているが、その機構は解明されていない。

今回、Alex Robelは、海水に浮遊する大量の氷山の動きと相互作用が計算され、破壊と再生を繰り返す弾性のある海氷板との結合状態も計算される新しい数理モデル法を使って、この仮説を検証した。Robelのコンピューターシミュレーションでは、この氷山メランジェに海岸線に固定された海氷が密集している場合には、これが控え壁となって支える力が働き、氷河のカービングを防ぐために十分な力になることが明らかになったが、その一方で、海氷が薄い場合には、カービングの発生可能性が高くなり、動きの速い氷山が生み出す波によって氷山メランジェが破壊されることも明らかになった。もし氷山メランジェが、その次のカービング事象までに再生して、再凍結しないと、控え壁となって支える作用が完全に失われ、これによって海水準の上昇速度が増す可能性がある。

このモデルの不確実性を克服し、今回の研究でモデル化された過程をグリーンランドと南極で海洋に流れ込む特定の氷河に直接適用できるようにするためには、氷山メランジェに含まれる物質の特性の観測を積み重ねていく必要がある。

doi: 10.1038/ncomms14596

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