Research Highlights

Fingolimod はMS に有効な経口治療薬である

Nature Reviews Neurology

2010年3月1日

Fingolimod is an effective oral treatment for MS

Fingolimod は経口のスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体モジュレーターである。New England Journal of Medicine 誌に発表された2 件の二重盲検無 作為化対照試験によれば、fingolimod は再発寛解型多発性硬化症(MS)に有効な経口治療薬である。この両試験の有望な結果は非常によく似ており、近い将来経口投与による治療ができるかもしれないという希望をMS 患者に与えている。

MS は中枢神経系(CNS)に影響を及ぼす慢性疾患であり、異常な炎症反応により軸索の脱髄が生じてニューロンが損傷し、最終的には多くの患者で重度の身体障害・神経障害に至る。MS の症状に対する治療 薬はいくつかあるが、そのほとんどは緩やかな効果であり、まれではあるものの、効果のより強い治療薬では重度の有害事象を起こす可能性がある。さらに、この新しい試験のうちの1つの主任研究者である Cleveland Clinic のJeffrey Cohen は「承認されている治療薬はすべて注射による投与であり、利便性や忍容性、コンプライアンスに悪影響を与える」と指摘しており、「使用できる治療薬はすべてMS の異常は炎症が主な標的で、変性に関する要素に対しては有効ではない」と述べている。

Fingolimod は、経口剤としてのバイオアベイラビリティが良好で、リンパ球S1P 受容体に対する機能的拮抗作用でリンパ球が走化性刺激に反応し、リンパ節から移出することを抑制してCNS への浸潤を抑制 する。さらにニューロンやグリアのS1P 受容体にも作用し、神経を保護する特性、または回復させる特性を有する可能性もある。

経口のfingolimod がMS 治療に有効かどうかを調べるため、Cohen らは2 種類の用量(0.5mg または1.25mg)のfingolimod 連日投与と、筋肉注射により投与する従来のMS 治療薬であるインターフェロ ンβ1a(IFN-β1a)の週1 回30μg 投与とを比較した。この試験のエンドポイントは年間再発率とMRI で観察される新規病変数および拡大病変数であった。12ヵ月の試験結果を分析したCohen は、「Fingolimodはいずれの用量でも、再発またはMRI 病変拡大、すなわちT2 強調画像およびガドリニウム増強画像における新規病変・拡大病変を低減するという点、また脳萎縮の進行を遅らせるという点で、IFN-β1a よりも優れていた」と報告している。

また、スイスのUniversity of Basel のLudwig Kapposらは、別の二重盲検無作為化対照試験を実施し、再発寛解型MS 患者を対象に同じ用量のfingolimod とプラセボを比較した。この試験においてもfingolimod群の治療結果は有望であった。Fingolimod 群のいずれの用量でも、年間再発率と試験期間2 年における障害進行リスクがプラセボ群と比較して有意に低下した。さらにCohen らの試験と同様、いずれの用量においても病変拡大と脳萎縮の進行が有意に低減された。

この2 件の試験で特筆すべきもう1 つの共通点は、fingolimod の2 つの用量間で、有効性に有意差が認められなかったことである。この所見は重要で、Cohen らの試験では高用量のfingolimod で頻度は低 いものの、重篤な感染や癌との関連の可能性が認められたからである。「これらの事象はまれにしか発現しないので、どの程度fingolimod と関連があるのか、はっきりさせることは難しい」とCohen は説明する。「(Kappos らの試験の)結果が、重篤な感染や癌の増加の可能性を裏付けるものではないようだったことは安心である。しかし強力な免疫学的治療法において、感染や癌は予想できないリスクではないだろう」。

Fingolimod がCNS に直接及ぼす影響を完全に理解するためには、さらなる研究が必要である。CohenとKappos は、fingolimod が神経保護特性または回復特性を有しているかどうかを調べることが、リンパ球に対する影響を調べるのと同様重要になるだろうという見解で一致している。「Fingolimod の総合的な使用法やMS における第一選択治療として適切かどうかは、利点と潜在的なリスクとのバランスによって決まるだろう」とCohen は締めくくっている。

doi: 10.1038/nrneurol.2010.6

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