Research Highlights

孤発生ALS の遺伝的危険因子

Nature Reviews Neurology

2009年11月1日

Genetic risk factors for sporadic ALS

数多くの環境因子や遺伝因子が孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関与しているが、遺伝的要素の詳細についてはまだよく知られていない。今回、Michael van Es らは孤発性ALS に対する新しい感受性遺伝子座を2 つ見出した。1 つはグルタミン酸などの神経伝達物質の放出にかかわる蛋白質をコードしている領域内、もう1 つは前頭側頭型認知症を有する家族 性ALS との関連が既に認められている染色体9p21.2 上に存在した。この結果は、遺伝的な違いが孤発性ALS の重要な一要因であるという仮説を支持するものであり、この疾患における遺伝因子の役割を強調している。

ALS は神経変性疾患で、脊髄および脳における運動ニューロンの進行性の消失が特徴である。高い選択性で神経細胞が失われるため、初期では筋力低下が生じ、疾患が進行するにつれて筋萎縮や麻痺が現れる。 数多くの遺伝子がALS に関連することが知られているが、家族性ALS は全症例の5 ~ 10%に過ぎない。孤発性ALS の明確な原因は現在不明であり、環境因子と遺伝因子の両方が関与を疑われていた。

孤発性ALS における遺伝的因子の関与を調べるために、オランダのvan Es(University Medical Center Utrecht)らは、ALS 患者約20,000 例を対象にした2 つの独立コホートで、ゲノムワイド関連研究を実施した。まず始めに、全ゲノムSNP チップを用いた高速解析法により、孤発性ALS 患者2,323 例と対 照9,013 例における一塩基多型(SNP)を同定した。次にALS と関連がみられたSNP について、独立コホートの孤発性ALS 患者2,532 例と対照5,940 例を対 象に評価を行った。

この技術によって、van Es らは孤発性ALS と明らかに関連があるとみられる3 個のSNP を見出した。そのうち1 個のSNP はUNC13A 遺伝子にあった。 van Es は「この遺伝子は神経伝達における小胞プライミングに関与している。この遺伝子が欠損したマウスは、重篤な筋力低下をきたす」と述べている。さらに、 UNC13A 遺伝子にコードされた蛋白質は、グルタミン酸作動性シナプス伝達に極めて重要であることが知られているが、蓄積されてきた研究結果により、グルタミン酸の興奮毒性がALS 患者の運動ニューロン細 胞死の一因である可能性も示唆されているため、このSNP は特に興味深い。他の2 個のSNP は染色体9p21.2 にある。この領域には3 個の遺伝子、MOBKL2B 、IFNK、C9orf72 が含まれており、「われわれの試験で関連が認められた遺伝子座は家族性ALS を有するいくつかの大家族でも同定されており、おそらく(家族性および孤発性ALS の)両方に同じ遺伝子群が関与している(ことが示唆されている)」とvan Es は説明している。

今回同定された遺伝子群が孤発性ALS とどのように関連しているのかを調べることが、次のステップである。さらに、ALS に対する他の感受性遺伝子座が存在する可能性もあり、これらはさらに大規模のゲノ ムワイド関連研究で同定できる可能性がある。先行のゲノムワイド関連研究では孤発性ALS に対する他の感受性遺伝子候補が同定されており、これまでの研究のメタアナリシスによって、将来の治療の基礎となる 最も適切な標的が同定されるかもしれない。

doi: 10.1038/nrneurol.2009.172

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