Research Highlights

HD における神経移植片の生存は不十分

Nature Reviews Neurology

2009年9月1日

Neural grafts survive poorly in HD

ハンチントン病(HD)の治療に用いられた移植神経細胞は、当初はうまく生着し、正常のようにみえるものの、長期的には病的変性を示す。Francesca Cicchetti やThomas Freeman らは、移植10 年後における線条体移植片は、宿主組織と比較して広範に変性していることを見出した。HD に対する治療法としての神経細胞移植が、患者にとっての有望な長期的治療選択肢とみなされるまでには、さらなる開発が必要である。

HD は、ハンチンチン遺伝子(HTT) におけるCAGリピートの伸長が原因となって引き起こされる。この遺伝子異常は、線条体におけるニューロンの欠損をもたらす。変性ニューロンを置換するための移植療 法は、治療法として一連の興味を引く研究が行われており、有望な前臨床評価結果が得られている。げっ歯類および霊長類において、胎児線条体ニューロン移植片が生着して機能的に統合され、行動の改善をもたらすことが認められている。さらに、パーキンソン病患者において、移植したニューロンが11 年または12 年間生存し、長期的な臨床的有益性をもたらすという予備的証拠も得られている。

Cicchetti らは、10 年前に尾状核および被殻への線条体移植を受けた3 例のHD 患者の脳を調査した。 死後の免疫組織化学的検討によってシナプス結合の構築が認められ、また、18 ヵ月および6 年間にわたって追跡調査した患者における臨床的有益性も認められた。しかし、著者らは、10 年後における移植片の生存が低減していることを見出した。すなわち、すべての尾状核移植片は消失し、生存している被殻移植片は病的変化を認めた。著者らは、ニューロン移植は、当初は有望な結果を示すものの、「HD の絶え間なく続く破滅的な進行を防止することはできない」と結論づけている。

移植組織において、中型有棘ニューロンが介在ニューロンと比較して広範に消失しており、これはHD に特徴的なパターンである。移植片は宿主とは遺伝的な関係がないため、この所見は、Cicchetti によれば「異常なHD 遺伝子は、線条体内でニューロン変性が引き起こされる必要条件でない」ことを示している。したがって、HTT 遺伝子異常が細胞死を引き起こすメカニズムは間接的なものと考えられ、これらの結果はHD にみられる変性を説明する有力なモデルを示唆している。

Cicchetti は、変性は「脳の他所で発現されている異常遺伝子の遠隔効果と考えられる」と述べている。その結果、神経毒性のある環境が形成され、その中で 移植ニューロンは長期間生存できなくなる。著者らは、移植片のニューロン成分を特異的に標的としたミクログリア活性も確認しており、炎症反応または免疫反応はこの敵対的環境に関与していると考えられる。著者らは、この結果は「HD に対するこの有力な治療方法に不確実性をもたらしている」と結論づけているが、将来の開発に対する道筋も示している。移植片生存の改善は、HD に対する成功的治療法としてのニューロン移植の開発に必須である。著者らは、研究は、宿主由来の神経毒性および免疫反応の影響を低減することに焦点を当てるべきであると説いている。パーキンソン病患者における線条体移植片は、HD に比べてより長く生存し、病的変性を被ることが少ない。この理由は完全には明らかになっていない。移植に関した臨床試験は、HD の発症メカニズムを明らかにするための重要な研究手段をも提供する可能性がある。

doi: 10.1038/nrneurol.2009.132

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