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スピロノラクトンと治療抵抗性高血圧

Nature Reviews Endocrinology

2010年5月1日

Hypertension Spironolactone and resistant hypertension

真性の治療抵抗性高血圧は比較的頻度の高い疾患であるが、有効な治療法はまだ確定されていない。de Souza らの新しい研究により、治療抵抗性高血圧患者において低用量スピロノラクトンが強力な血圧降下作用を示すことが明らかにされた。本結果は、この悪名高く治療困難な疾患を効果的に治療法するう えで重要な臨床的意義をもつと考えられる。

一般に治療抵抗性高血圧は、利尿薬を含む3 種類以上の異なるクラスの降圧薬で治療しても血圧コントロールが不良[収縮期血圧(SBP)> 140 mmHg、 拡張期血圧(DBP)> 90 mmHg]な状態と定義される。これまでに、治療抵抗性高血圧治療においては低用量抗アルドステロン薬スピロノラクトンが有効であることが既に明らかにされている。そこでde Souza らは、治療抵抗性高血圧の治療選択肢にスピロノラクトンを加えるためのさらなる根拠を示すとともに、関連するメカニズムの解明を試みた。本研究においてde Souza らは、血清カリウム値および腎機能が正常な治療抵抗性高血圧患者に対しては低用量(25 ~ 50 mg/ 日)スピロノラクトンによる治療を考慮すべきであると結論づけた。

同研究者らは、複数の降圧療法が無効の真性治療抵抗性高血圧患者175 例を対象にスピロノラクトンを投与する前向きオープンラベル試験を実施した。治療抵抗性高血圧の評価やその治療を困難にさせているの は、医療施設での測定でのみ血圧が上昇する、いわゆる白衣高血圧の存在がある。したがって真性の治療抵抗性高血圧を見分けるためには白衣高血圧を除外する必要があるが、それには携帯型血圧計による測定が有用である。試験登録時の評価で白衣高血圧がコホート患者(236 例)の25% にみられたことはきわめて興味深い。スピロノラクトン投与は1 回目の携帯型血圧測定時に25 mg/ 日の用量から開始し、2、4、6 ヵ月後の経過観察時に外来測定を行った後、用量を50 mg または100 mg/ 日に増量した。2 回目の携帯型血圧測定は最初の測定から中央値で7 ヵ月後に実施した。一部の患者(78 例)では、2 回目の測定から中央値で8 ヵ月後に3 回目の携帯型血圧測定を行った。主要評価項目はベースラインからの血圧の変化とスピロノラクトンの平均用量であった。試験期間を通して他の降圧療法に変更はしなかった。

SBP とDBP はいずれも顕著、強力かつ持続的に低下したことが外来記録( それぞれ- 14 mmHg、 - 7 mmHg)でも携帯型測定記録(同- 16 mmHg、 - 9 mmHg)でも実証された。言い換えると、被験者の48% で良好な血圧コントロール( 日中血圧< 138mmHg/ < 85 mmHg と定義)が達成された。スピロノラクトンを100 mg/日に増量した患者では、 25 ~ 50 mg/ 日投与した患者に比べてさらなる血圧低下がみられることはなかった。治療に反応して適切な血圧を達成(ベースラインからの低下率> 10%)するための要素として腹囲の増大、大動脈弾性の減少を示す大動脈脈波伝播の低下、BMI 上昇および血清カリウム値低下が存在した。女性化乳房、性欲低下、腎機能悪化、血清カリウム値上昇などの有害事象の発現頻度(7.4%)は既知の試験結果から予測される値であった。

de Souza らの試験結果は、多くの点で重要である。第1 に、本試験は特に白衣高血圧を識別、除外したうえで治療抵抗性高血圧に対するスピロノラクトンの追加投与の効果を最も厳格に評価している点である。スピロノラクトンの強力な血圧降下作用については、過去の試験でも明らかにされている。Nishisaka らは原発性アルドステロン症を伴う、もしくは伴わない治療抵抗性高血圧患者を対象に低用量スピロノラクトンに対する治療反応性を比較し、de Souza らの知見と同等の効果を見出している。第2 に、たった1 つの薬剤を追加しただけで実際に被験者の約半数で良好な血圧コントロールが得られたことは注目に値する。第3 に、長期にわたってベネフィットを示すことが期待される薬剤の選択において、本剤の効果持続期間(~ 15 ヵ月間)は臨床的な意義をもっている。最後に、本試験により臨床反応の予測因子として推測される因子が特定されたことから、治療抵抗性高血圧の病態生理や本疾患を発症するリスクを有する患者の解明が進むと考えられる。

本試験では、現在議論されているスピロノラクトンによる介入の特殊性を直接検討する試みは行われなかった。例えば治療抵抗性高血圧の原因の1 つとして知られる食事による高ナトリウム摂取は、細胞外液 量を増加させることによって血圧を上昇させる。こうした高ナトリウム摂取が治療抵抗性高血圧を引き起こすことを示すエビデンスとして、de Souza らは血漿レニン活性の抑制と伝統的に塩分が濃いとされる食 事を被験者が自由に摂取していたことを挙げている。したがって他の利尿薬(例えばアミロライドなど)を追加投与すればナトリウム利尿が亢進し、さらなる血圧低下が望めると考えることもできる。しかし、スピロノラクトンとアミロライドを比較した試験ではそれを否定する結果が示されている。

スピロノラクトンは鉱質コルチコイド受容体と結合することによってアルドステロンの作用を阻害する。インスリン抵抗性と肥満はいずれもアルドステロン活性に大きく影響することから7,8、被験者のインスリ ン抵抗性および肥満の有病率はこの鉱質コルチコイド受容体阻害に対する臨床反応に影響を及ぼす可能性がある。

de Souza らの試験ではスピロノラクトンと腹囲、大動脈脈波伝播速度、BMI、血清カリウム値との間に関連性が認められたが、現時点ではこれらの結果を過大に評価すべきではない。その確定には大規模試験 によるさらなる検証が求められよう。興味深いことに、血清カリウム値の低下傾向が認められたのが、de Souza らの試験では顕性原発性アルドステロン症患者が除外されていたにもかかわらず、鉱質コルチコイド受容体感受性が相対的に増大したことによってスピロノラクトンに対する反応性が増強したことを示唆している可能性がある。

スピロノラクトンによる有害事象の発現については過去にも報告があり、それにより本剤の使用が大きく制限されていることはよく知られている。しかし、エプレレノンといったより選択的な薬剤を使用すること で同等の臨床反応を問題なく得られる可能性があり、その点を考慮して選択的薬剤に関する同じ試験を実施することが望まれる。

過去の報告にde Souza らの研究結果が加わったことにより、真性の治療抵抗性高血圧に対するスピロノラクトンの投与に関する確信は強まったといえる。とはいえ、まだ未解決の問題が2 つ残されている。1 つは、治療レジメンにスピロノラクトンを加えることによって他の降圧薬の投与は中止できるか。もう1 つは、スピロノラクトンを他の薬剤よりも早期に投与しても同等の効果が得られるか、つまりスピロノラクトンは第3 の降圧薬となるかである。目標血圧の達成以上にアルドステロン活性阻害が、真性の治療抵抗性高血圧患者においてはさらなるベネフィットをもたらす可能性も期待される。このメカニズムについては今後検討を行い、腹囲と大動脈脈波伝播速度との関連についても確認する必要がある。

doi: 10.1038/nrendo.2010.26

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