加齢:1回の注射で霊長類の高齢個体の記憶機能が改善された
Nature Aging
2023年7月4日
Ageing: A shot to boost memory function in aged primates
長寿タンパク質であるクロトーの単回投与によって、高齢のアカゲザルの認知機能を向上させられることが明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Agingに掲載される。著者らは、この知見が、脳機能の若返り薬としてのクロトーの臨床応用に向けた一歩となると考えている。
認知機能は、重要な脳機能の1つで、加齢や加齢関連疾患(例えばアルツハイマー病)によって損なわれる。世界人口の高齢化が進む中、認知障害は、効果的な薬理学的介入を必要とする生物医学的課題となっている。クロトーは、長寿タンパク質の1つで、加齢とともに減少する。マウスにクロトーを導入する実験では、マウスの寿命が延びたという報告がある。また、最近の研究では、クロトーがマウスのシナプス機能を増強し、認知機能を高めることが明らかになった。
今回、Dena Dubalらは、クロトーがヒト以外の霊長類の認知機能にも同様の効果をもたらすかを調べるため、18匹の高齢のアカゲザル(平均年齢:約22歳)にクロトーを低用量(体重1キログラム当たり10マイクログラム)で1回皮下注射した。この1回の注射の後で実施された作業記憶と空間記憶の検査により、アカゲザルの高齢個体の認知機能が改善され、この改善効果が少なくとも2週間持続することが示された。高用量の注射の場合は、認知機能の改善が見られなかった。
Dubalらは、クロトーが認知機能にもたらす有益な効果は、ヒト以外の霊長類にも及ぶと結論付けている。今回の知見は、今後、高齢者の認知機能低下を抑制するための介入手法を開発するために役立つ可能性がある。
doi: 10.1038/s43587-023-00441-x
注目の論文
-
12月3日
神経科学:標的を絞った脳深部刺激が脊髄損傷後の歩行を改善するNature Medicine
-
11月29日
気候:2026年ワールドカップの開催地は、サッカー選手に熱ストレスのリスクをもたらすScientific Reports
-
11月26日
健康:イングランドにおけるカロリー表示の効果の評価Nature Human Behaviour
-
11月21日
生物学:全ヒト細胞アトラスの作成Nature
-
11月21日
健康科学:イカに着想を得た針を使わない薬物送達システムNature
-
11月19日
メンタルヘルス:50歳以上の成人のウェルビーイングは、インターネットの利用によって改善される可能性があるNature Human Behaviour