神経科学:強迫行動の神経化学的基盤を調べる
Nature Communications
2023年6月28日
Neuroscience: Investigating the neurochemical basis of compulsive behaviour
脳内の化学伝達物質(神経伝達物質のグルタミン酸やGABAなど)の濃度の変化が、強迫行動や習慣的行動の一因となる可能性があることを示した論文が、今週、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、将来の強迫性障害(OCD)治療に役立つ情報となる可能性がある。
強迫行動(過度の確認行為、過剰な手洗い、物事の順序へのこだわりなど)は、固執行動の一種で、健康に悪影響を及ぼす可能性がある。強迫行動と神経伝達物質(神経細胞間の情報伝達に関与する脳内の化学伝達物質)の濃度との関連、そして、強迫行動の基盤となる神経機構については、はっきりしたことが分かっていない。
今回、Marjan Biria、Trevor Robbinsらは、脳スキャンを行って、2つの脳領域(前帯状皮質と補足運動野)における神経伝達物質の濃度を測定し、強迫行動との関連を調べた。著者らは、OCD患者(31人)と健常対照者(30人)の脳スキャン結果と心理計測結果を比較し、全ての被験者において、補足運動野(運動に関連する脳領域)におけるグルタミン酸(興奮性神経伝達物質)の濃度が強迫行動に関連し、グルタミン酸の濃度とGABA(抑制性神経伝達物質)の濃度の関係(グルタミン酸/GABA比)が習慣的行動に関連していることを明らかにした。また、OCD患者については、前帯状皮質におけるグルタミン酸/GABA比も習慣的行動に関連していることが判明した。
今回の知見は、興奮性神経伝達と抑制性神経伝達の不均衡が、強迫行動の背景になっている可能性を示唆している。また、全ての被験者に共通して見られた関連は、強迫性が脳の前頭部に関連する普遍的な現象であることを示唆している。今回の研究結果は、これらの脳内回路における神経伝達物質の濃度のバランスを回復する新たな神経調節物質によるOCD治療法への道を開くものとなる可能性がある。
doi: 10.1038/s41467-023-38695-z
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