生物学:ハエで見つかった新しい味覚
Nature Metabolism
2023年3月21日
Biology: A new taste identified in flies
ショウジョウバエは、新たに特定された味覚受容体によって、アルカリ性物質を感知できること報告する論文がNature Metabolismに掲載される。この研究は、味覚の研究に広く利用されるモデル生物であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)で行われたものだが、今後、他の動物でアルカリ味の研究を行うための基盤になるかもしれない。
味覚は、動物が何を食べるかという選択を迫られた時の意思決定過程に影響する。そのおかげで、食物を試食してみてから大量に摂取することができるのである。食物源には多くの酸や塩基が含まれ、pHは物質の酸性度、アルカリ性度を示す。したがって、pHを感知することにより、動物は健康によい食物を選んで有害な恐れのあるものを排除できる。ただ、これまでに酸を感知する味覚受容体は同定されているが、塩基を感知するものは見つかっていなかった。
Yali Zhangたちは、中性の食物(pH7)とアルカリ性の食物(例えばpH12)という選択肢があるとき、野生型のショウジョウバエはほとんどが中性の食物を選び、アルカリ性の食物を避けることを見いだした。さらに著者たちは、アルカリ性のpHで活性化される塩素チャネルをコードしているalkaliphile(alka)という遺伝子を発見した。alkaはハエの味覚受容体ニューロンで発現し、アルカリ性物質を感知する働きを担っている。強いアルカリ性が発生や生存、寿命に与える悪影響を考えると、このアルカリ性物質を感知する能力は、ハエにとっての有利な適応と言えるかもしれない。著者たちは、アルカリ性物質を感知できれば、ハエが有毒物質の摂取を避けたり、アルカリ性環境で増殖する病原体を排除したりする助けになるだろうと述べている。
ただし、著者たちは、哺乳類を含めた他の動物でもこのようなアルカリ性を感じる味覚受容体が機能しているかどうかを解明するには、さらに研究が必要だと指摘している。
doi: 10.1038/s42255-023-00765-3
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