がん:頭頸部がん患者におけるPI3Kδ阻害の評価
Nature
2022年5月5日
Cancer: Evaluating PI3Kδ inhibition in patients with head and neck cancer
実験的抗がん剤AMG319(ホスホイノシチド 3-キナーゼδ(PI3Kδ)の阻害剤の一種)の第II相臨床試験において、頭頸部がん患者に抗がん効果のあることが明らかになったことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。ただし、臨床試験の用量で、患者に免疫関連有害事象が発生し、AMG319による治療を停止する必要が生じ、AMG319の投与を受けたマウスが大腸炎(自己免疫疾患の一種)を発症した。以上の結果は、投与計画を変えることで、AMG319の毒性を抑えられるかもしれないことを示唆している。
PI3Kδ阻害薬(AMG319など)が抗腫瘍免疫を誘導することが、マウスを用いた先行研究によって示されている。しかし、ヒトの固形腫瘍に対するPI3Kδ阻害剤の効果は、あまり研究されておらず、免疫関連有害事象の可能性が、これらの薬剤の臨床開発を妨げている。今回、Christian Ottensmeierたちのは、固形腫瘍患者の免疫細胞に対するPI3Kδ阻害剤の効果を詳細に検討し、頭頸部がん患者(30人)を対象としたAMG319の無作為化第II相臨床試験を実施した。その結果、PI3Kδを阻害すると、(腫瘍に対する免疫応答を弱める可能性のある)制御性T細胞が減少し、(腫瘍細胞を標的とする免疫細胞である)CD4+T細胞とCD8+T細胞が活性化することにより、腫瘍の細胞組成が大きく変化することが明らかになった。AMG319投与群に割り付けられた15人の患者のうち、9人に免疫関連有害事象が生じ、AMG319の投与が中止された。その後新たに6人の患者を採用し、投与量を減量して臨床試験が行われたが、そのうちの3人に免疫関連有害事象が生じ、AMG319の投与が中止された。
固形腫瘍のあるマウスを使った実験では、PI3Kδの阻害により、大腸において大腸炎に関連する制御性T細胞の組成が大きく変化した。これに対して、PI3Kδを断続的に投与したところ、持続的な抗腫瘍免疫と毒性の低下が起こることが明らかになった。さらなる研究が必要ではあるが、Ottensmeierたちは、固形腫瘍において抗腫瘍免疫応答を誘導しつつ、健常組織における制御性T細胞の機能低下に関連した有害作用を抑制するためには、用量の減量やPI3Kδによる治療計画を修正することが必要だと結論付けている。
doi: 10.1038/s41586-022-04685-2
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