疫学:イングランドでのSARS-CoV-2の進化と感染拡大をたどる
Nature
2021年10月14日
Epidemiology: Tracking the evolution and spread of SARS-CoV-2 in England
2020年9月〜2021年6月までのイングランドにおける重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)系統株(71種)の消長を追跡した研究の結果を報告するMoritz Gerstungたちの論文が、今回Nature に掲載される。今回の研究は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の間にさまざまな変異株が果たした役割を明らかにしている。特に、この研究データは、2020年秋の2度目のロックダウンの際にアルファ変異株の感染拡大が起こり、他の変異株の感染拡大が起こらなかった過程と2021年夏にデルタ変異株が優勢になった過程を示している。この研究で得られた知見は、今回のパンデミックの過程が形成された際にSARS-CoV-2の進化といろいろなロックダウン措置の間の相互作用があったことを浮き彫りにしている。
SARS-CoV-2は、1年当たり約24個の点変異を蓄積するため、新しい変異株の特徴を明らかにすることは、ウイルスの感染拡大を監視し、将来何が起こるかを予測するための重要なツールになっている。今回、Gerstungたちは、イングランドにおけるCOVID-19の流行動態を再構築するため、COVID-19 Genomics UK(COG-UK)コンソーシアムがゲノムサーベイランスのためにゲノム配列を決定したウイルスサンプルのうち約28万点を用いて、イングランドの地方自治体(315自治体)での各種SARS-CoV-2変異株の増殖と感染拡大を調べた。
Gerstungたちによれば、より感染力が強いアルファ変異株の台頭は、2020年初冬の感染者の急増と関連していた。2020年11〜12月に英国全土での第2次ロックダウンと各地域での段階的制限が実施された時には、アルファ変異株が勢いを増し、他の系統株が衰退した。しかし、アルファ変異株は、2021年初めの厳しい第3次全国ロックダウンによって抑制されたことが示されている。2021年初夏までにはデルタ変異株が優勢となり、6月末にサンプリングされたSARS-CoV-2ゲノムの約98%にデルタ変異株が含まれていた。イングランドでは成人の90%以上がSARS-CoV-2に対する抗体を保有し、70%近くが2回のワクチン接種を受けていたにもかかわらず、制限が緩和されたためにデルタ変異株の症例数は、2021年7月の最初の2週間には増加し続けた。この期間中にアルファ変異株の症例数は減少していた。Gerstungたちは、ワクチン接種率が高い他の国々においても、制限が解除されると症例数は増加する可能性があるという見解を示している。
doi: 10.1038/s41586-021-04069-y
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