注目の論文

免疫学:重症のCOVID-19患者における抗ウイルス応答の減弱化

Nature

2021年1月25日

Immunology: Impaired antiviral responses in patients with severe COVID-19

重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の体内には、有効な抗ウイルス応答を阻害する抗体が存在していることを明らかにした論文が、Nature に掲載される。今回の研究では、軽症のCOVID-19患者と重症のCOVID-19患者(計21人)の分析が行われ、重症患者の免疫系では、軽症患者に見られる防御細胞集団が産生されないことが明らかになった。この論文では、抗ウイルス応答を再活性化させる可能性のある治療法の標的候補が突き止められた。

今回、Matthew Krummelたちは、軽症のCOVID-19患者(11人)と重症のCOVID-19患者(10人)の免疫応答の相違点を調べた。軽症患者の体内では、インターフェロン誘導性遺伝子発現という過程を介して防御免疫細胞が産生される。インターフェロンは、シグナル伝達タンパク質の一種で、感染に応答して放出され、これが引き金となって免疫細胞がウイルスを攻撃し、それと同時にウイルスの宿主細胞への侵入を直接阻害する作用を有する。しかし、重症患者の場合、今回の研究で分析対象になった全ての免疫細胞集団においてインターフェロン誘導性遺伝子の発現プロファイルが低下していた。Krummelたちは、重症患者の体内では、インターフェロン誘導性防御免疫細胞の産生を能動的に阻害する抗体が産生されていることを実証した。

さらに、この免疫応答阻害の機構を突き止めるための実験によって、重症のCOVID-19患者において、インターフェロン誘導性遺伝子発現プログラムが阻害される原因となるシグナル伝達経路が明確に示された。Krummelたちは、このシグナル伝達経路を阻害することが知られている薬物が、COVID-19の新しい免疫療法になって患者の重症化を防止できる可能性があるという考えを示している。COVID-19における抗体応答の解明には、今後の研究の積み重ねが必要であり、Krummelたちは、患者間で抗体応答の性質そのものに差異が生じている可能性が高いと結論付けている。

doi: 10.1038/s41586-021-03234-7

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