注目の論文

医学研究:COVID-19から回復した患者は、集団内に「遮蔽免疫」を形成するのに役立つ可能性がある

Nature Medicine

2020年5月8日

Medical research: Identifying patients who have recovered from COVID-19 could help develop ‘shield immunity’ within a population

COVID-19から回復した人々が一般集団へと復帰すれば、病因であるSARS-CoV-2コロナウイルスの伝播速度の低下が促進される可能性があることを、Nature Medicine に掲載されているモデリング研究が明らかにしている。このような回復者は抗体検査によって見つけ出さなくてはならないだろうが、「遮蔽免疫(shield immunity)」を地域社会に広げていく助けとなりそうだ。

COVID-19には信頼できるワクチンや治療法がないため、今回のパンデミックに対して現在使われている公衆衛生戦略は概ね2つの手法、つまり緩和策と抑制策のどちらかに分類される。どちらの戦略も、人と人の接触回数を制限することによってSARS-CoV-2の新規感染を減らそうとするものだ。しかし、このような制限は長期にわたる負の影響を経済や社会に及ぼす可能性がある。

J Weitzたちは、SARS-CoV-2の伝播を減らすための疫学モデルを開発し、分析を行った。この手法は、血清(すなわち抗体)の検査を行って、COVID-19から回復した人々を特定することによっている。回復者はウイルス陰性となり、SARS-CoV-2に対する防御抗体を持ち、感染感受性の人と他人に病気を感染させる人との両方と安全に交流できると、このモデルは想定している。つまり、このような回復者は一般集団に戻ることができ、他の人たちに比べて交流回数が多くなる可能性がある。Weitzたちは、こうすることで集団内では回復者同士の交流が増え、状態が不明な人同士の交流が減るため、集団内に「遮蔽免疫」が構築されるだろうと考えた。

著者たちは、1000万人からなるモデル集団を使って、この「遮蔽免疫」の影響を調べた。R0(基本再生産数)は、感染力を持った1人の感染者が、他が全て感受性者である集団内に発生させるだろう感染者の数を示す値である。彼らは、R0が2.33で伝播が頻繁に起こっている場合とR0が1.57で伝播がそれほど頻繁でない場合の2つのシナリオを想定し、中程度の遮蔽(1人の感染者もしくは感受性者を1人の回復者と置き換えて、この回復者と他者との交流を2回に増やした場合)と高度な遮蔽(同じく1人の回復者と他者との交流を20回に増やした場合)の影響を評価した。伝播が頻繁に起こるシナリオで予測される死亡数は7万1000人だが、中程度の遮蔽下では5万8000人に、高度な遮蔽下では2万人に減少した。伝播がそれほど頻繁でないシナリオでは、死亡数は5万人と予測されたが、中程度の遮蔽により3万4000人に、高度な遮蔽ならば8400人へと減少した。またこのモデルでは、遮蔽免疫をソーシャルディスタンシングと併せて行えば、回復者が社会活動へ戻れるようにしながら、接触を減らせることが示された。

Weitzたちは、この基本モデルでは回復者の免疫が1年以上持続すると仮定していることに注意を促しているが、免疫が4か月以上持続すればロバストな遮蔽免疫が見られることは、この研究で示されているが、現時点では免疫の持続期間は不明である。またこの結果を何らかの公衆衛生的介入を行う裏付けにするには、母集団全体での正確な血清検査が必要なことも、著者たちは強調している。

doi: 10.1038/s41591-020-0895-3

「注目の論文」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度