【健康】サソリ毒から命を守る抗炎症薬
Nature Communications
2016年2月24日
Health: Anti-inflammatory drugs may protect from scorpion venom
広く入手可能な抗炎症薬を投与すれば、サソリの毒による死を避けられることがマウスの研究で明らかになったことを報告する論文が、今週掲載される。
ブラジル黄サソリ(Tityus serrulatus)に刺され、その毒によって死ぬ者が、年間数千人にのぼっている。現在利用できる唯一の治療法は抗血清だが、必ず奏功するわけではなく、アナフィラキシー(命に関わることもある危険なアレルギー反応)を起こすこともある。ブラジル黄サソリの毒の活性に関係する分子機構は、これまでのところ明らかになっていない。
今回、Lucia Helena Faccioliたちは、4~6匹のマウスからなるグループを複数用意して、いくつかの実験を行い、さまざまな用量のサソリの毒をマウスに注射すると、肺において強力な炎症応答が起こり、肺が肥大し、呼吸困難によって死に至ることを明らかにした。そして、Faccioliたちは、致死量の毒を注射されても生き残ったマウスには、インフラマソーム(炎症応答を開始させる多タンパク質複合体)の特定の遺伝要素を持たないマウスと、炎症を増大させて肺の病変を引き起こすシグナル伝達分子(プロスタグランジンE2)を産生する特定の酵素を持たないマウスがいたことを明らかにした。また、こうした要素を持つマウスは、プロスタグランジン類(炎症を増大させる分子の一群)の合成を阻害する一般的な抗炎症薬インドメタシンを投与することで、毒による死から免れる可能性があることも判明した。
以上の結果は、一般的に用いられる非ステロイド系抗炎症薬(例えば、インドメタシン、セレコキシブ)をサソリに刺された時の治療薬に転用できる可能性を示唆している。しかし、この新知見については、まずヒトでの研究を行って確認する必要がある。また、今回の研究では、サソリの毒がマウスにとって致命的な肺の病変を引き起こす機構が明らかになっており、さらなる治療薬の設計に役立つ可能性もある。
doi: 10.1038/ncomms10760
注目の論文
-
12月10日
加齢:脳の老化に関連する重要なタンパク質の発見Nature Aging
-
12月10日
Nature's 10:2024年の科学に影響を与えた10人Nature
-
12月3日
神経科学:標的を絞った脳深部刺激が脊髄損傷後の歩行を改善するNature Medicine
-
11月29日
気候:2026年ワールドカップの開催地は、サッカー選手に熱ストレスのリスクをもたらすScientific Reports
-
11月26日
健康:イングランドにおけるカロリー表示の効果の評価Nature Human Behaviour
-
11月21日
生物学:全ヒト細胞アトラスの作成Nature