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関節リウマチ:2011年版寛解基準はRA治療の新たなベンチマークである

Nature Reviews Rheumatology

2011年5月10日

Rheumatoid arthritis 2011 remission criteria are a new benchmark for RA therapy

関節リウマチにおいて、治療法の進歩は、寛解の状態が次第に達成可能な目標となっていることを意味する。しかし、寛解を治療の目標として用いると、この状態をどのように定義すべきなのかという疑問が生じる。大陸を超えた協力の結果、統一された定義に一歩近づいている。

寛解状態は、関節リウマチ(RA)患者が強く望む治療目標である。寛解は、疾患がない状態であると広く定義できる。しかし、この定義をRA患者に適用する最善の治療方法は、 時間と共に変化している。RAに対する新たなより有効性の高い治療法の出現と共に、寛解の概念は、厳密な基準を求めるものに戻りつつある。この変化は、米国リウマチ学 会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)が共同で策定した、寛解の新たな暫定的定義に反映されている。

寛解の定義は、歴史的にみると非常に厳格で達成不能なものであった。1981年にACR(当時の名称はAmerican Rheumatism Association)は、臨床的および免疫学的な 疾患活動性が全くない状態を寛解と定義した。時間と共に、寛解の概念は進化し、ある程度の持続的疾患活動性を許容することによって、達成可能な状態になった。最もよく用いられる寛解の定義では、疾患活動性スコア(DAS)が1.6未満または28関節の評価に基づくDAS(DAS28)で2.6未満とされている。これらの定義では、患者が「寛解期」にありながらもまだ活動性の滑膜炎を有する場合があるために批判が生じている。BeSt試験では、これらのDASに基づく寛解の定義を用いたが、低疾患活動性を目標に治療を受けた早期疾患患者のうち、4年後にドラッグフリー寛解の状態を達成したのはわずか13%であった。さらに、DASに基づく寛解定義を用いた2つの大規模観察コホート研究では、ドラッグフリー寛解を達成し得た患者(これらの患者は、DMARDで治療を開始していた)が、最大でも15%にとどまった。寛解が達成可能な治療目標になりつつあることと、既存の寛解の定義にみられる欠点を考慮して、ACR-EULARの作業目的は、臨床試験で使用できる、統一された「厳密であるが達成可能な」寛解基準を策定することであった。

2011年のACR-EULARによる寛解基準は、合意に基づくアプローチに続いてデータ主導のアプローチを用いて策定された。まず、RA管理の経験をもつリウマチ専門医によって、寛解の定義に重要な領域が特定され、それは腫脹関節数(SJC)、圧痛関節数(TJC)、急性期反応物質(C反応性蛋白[CRP]など)の血清中濃度、患者および医師による全般的健康状態の評価、患者評価による疼痛レベルであった。そして、合意に基づく手法を用いて、寛解に適合すると考えられる各領域のカットオフ値について、委員会は合意に達した。続いて、4件の臨床試験のデータを用いて、これらの領域を評価し、どの領域が良好な転帰(SharpスコアまたはHAQの変化が0以下)の最善の予測因子であるかを検討した。客観的な領域3項目(SJC、TJC、CRP値)は、X線学上の損傷の予防と機能の最適化に関する予測的妥当性が良好であったが、これらを、患者および医師による健康状態の評価、患者による疼痛評価と組み合わせると、さらに高い予測的妥当性が得られた。寛解は、Boolean型に基づく定義を用いて最終的に定義された。この定義によれば、TJC≦1、SJC≦1、CRP値≦1mg/dL、患者による全般的評価スコア≦1(0~10の尺度で)の基準を全て満たした場合に、患者は寛解期にあるとみなされる。さらに、指標に基づく定義が代わりの選択肢として取り入れられた。この2つ目の定義によれば、患者は、簡易化疾患活動性指標(simplified disease activity index:SDAI)スコアが3.3 以下の場合に、寛解期にあるとみなされる。どのような状況で代わりの定義が用いられるのかはまだ明らかにされていないが、いずれの定義も、策定の検証段階で同様の 能力を示した。

Boolean型に基づく寛解の定義は、DAS28に基づく寛解の定義より明らかに厳しいと考えられる。後者では、腫脹関節を最大5つ有しても、DAS28の算出に用いられるその他の変数(TJC、ESR、患者および医師による全般的健康状態の評価)がほぼ正常値であれば、寛解期にあるとされる可能性があるからである。しかし、DAS28に基づく定義と比べてこのような進歩があるにもかかわらず、新たな基準は十分に厳密であるのかという疑問が生じている。Boolean型に基づく定義では、患者が圧痛関節1個、腫脹関節1個を有し、寛解期にある場合がある。SDAIに基づく定義を用いると、腫脹関節が3個あっても(指標に含まれるその他すべての変数はスコア0と仮定)、寛解期にあると分類される可能性がある。この点から考えると、2011年版基準では、寛解の状態ではなく、疾患活動性が極めて低い状態が示されているという主張もあり得る。さらに、この基準では、寛解期間の長さの問題が取り上げられていない。患者が寛解期にある期間が長いほど、X線上の進行あるいは機能喪失をきたす可能性は低くなると推測される。また、導入試験や中止試験の場合、Boolean型に基づく定義による寛解をある一時点で達成できれば、さらなる損傷を確実に予防し続けながら、治療を中止させるのに十分なのであろうか。これらの基準が、全体として持続的(および持続したドラックフリー)寛解を達成できる患者を増加させるのに十分なほど厳密であるかどうかは、まだ検討されていない。

これらの新たな基準によってリウマチ学の研究者や臨床医が、関節炎で悩む人や新たな治療法を開発している研究者、日常の臨床診療でRA患者の治療を行っている医師らの ニーズに応えられるかどうかを検討するにつれ、いくつかの疑問が出てくるであろう。新たな基準は、臨床試験での使用を目的としているが、リウマチ専門医も、寛解という目標に向かって患者を治療しなければならない。新たな基準が高い費用対効果を有し、臨床で実行可能であるかどうかは、まだ検討されていない。寛解を達成した患者でそれ以上の関節損傷が発生せず、機能が維持され、あるいはドラックフリー寛解が達成されるように、これらの基準では十分に厳密に寛解が定義されているのであろうか。この寛解の定義を、開発中の新たな治療法のベンチマークにすべきであろうか。寛解は早期疾患患者でのみ達成可能なのであろうか。観察研究と、RA管理のための新薬や新戦略を検討する試験も含む今後の試験で得られるデータによって、これらの重要な疑問に回答が得られることが期待される。

doi:10.1038/nrrheum.2011.63

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