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免疫学:自己免疫疾患の患者における感染症の予防

Nature Reviews Rheumatology

2011年2月8日

Immunology Prevention of infections in patients with autoimmune diseases

自己免疫性炎症性疾患を有する成人に対するワクチン接種について新たな勧告がいくつか出されていることは、これらのハイリスク患者における感染症の予防に関して重要な前進があったことを示している。

多くの自己免疫性炎症性リウマチ性疾患(AI RDs)において最も多くみられる死因は、感染症である。AIRD患者では感染症のリスクが高くなっているが、これは、全 身性エリテマトーデスにおける白血球減少などの、自己免疫疾患それ自体による免疫病理に起因する可能性もあり、また疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)もしく は他のアルキル化剤やステロイドなどの免疫抑制剤治療による可能性もある。一部のAIRDsに対する治療法として生物学的DMARDsの導入は革命的であったが、こ れらの薬剤は特に、日和見感染や結核、帯状疱疹などの感染症に対するリスクを高めてしまう。予防接種は、一般集団およびハイリスク集団において様々な感染性 疾患から身を守るための、よく確立された手段である。

炎症性リウマチ性疾患を有する患者では感染のリスクが高いことを多くのリウマチ専門医が認識しているにもかかわらず、これらの患者の予防接種に関する国のガ イドラインに対してコンプライアンスが悪いことが調査によって明らかになっている。いくつかのAIRDsにおいてワクチン接種により疾患の再燃が誘発されたことを示 唆する症例報告はあるが、そのようなワクチン接種の有害作用は、疫学的対照試験においてこれまで観察されていない。このようなエビデンスがあるにもかかわら ず、患者と医師の双方に心配が残り、そのためAIRD患者においてワクチン接種の実施率が低いことにつながっている可能性がある。さらに、免疫抑制療法を受けて いる患者のワクチン接種計画においては、ワクチンの有効性が減弱すること、および、合併症の頻度が増す可能性があること(特に弱毒生ワクチンを使用する際)を 考慮せねばならない。

診療にあたるリウマチ専門医がこの複雑な仕事に取り組む際の助けとなるように、また、ワクチン接種により感染症を効果的に予防するための指針を提供するた めに、エビデンスに基づく勧告に対する必要性がリウマチ専門医のコミュニティーにおいて高まっている。最近、欧州リウマチ学会(EULAR)の専門委員会は、系統的 文献レビューおよび専門家の意見に基づいて、AIRD患者のワクチン接種に関するエビデンスに基づく勧告6を発表した。その13の勧告には、患者管理に関する方策 が示され、AIRD患者において接種を避けるべきもしくは考慮すべきワクチンが明記されている。

患者管理に関して、この勧告には、AIRD患者の各個人についてワクチン接種状況の評価を行い、未接種のワクチンについては国内および国際的な勧告にしたがって投与を考慮することも記されている。これらのアプローチには、B型肝炎ウイルス(HBV)やヒトパピローマウイルス(HPV)などの特定のワクチン接種の対象となり得る患者の選択も含まれている。可能ならば、患者の基礎疾患の活動性が悪化している間には、ワクチン接種を行うべきではない。

また、弱毒生ワクチンは、免疫抑制状態にある患者においては、できる限り避けるべきであることも推奨されている。しかしながらこの推奨は、免疫抑制剤を用 いて治療中の患者に対して帯状疱疹の生ワクチンをいつ接種するのが最適かということを、リウマチ専門医が決定するのを難しくしている。EULAR勧告では、米国 疾病管理センター(CDC)の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)からの提言を引用しており、その提言では、帯状疱疹ワクチンを投与できる免疫抑制療法の レベルについて、メトトレキサート投与量を週あたり0.4mg/kg未満としている。この閾値は、EULAR勧告に従って高用量メトトレキサート(20~30 mg/週)で治療中の 関節リウマチの患者では容易に超えてしまう値かもしれないことを念頭におくべきである。具体的には、体重62.5kgまでの患者ではメトトレキサート25 mg/週で治 療を受けていれば閾値に達してしまうということである。理想的にはB細胞除去療法を開始する前に予防接種を行うとするもう一つの推奨についても、秋から冬にかけ ての季節に毎年接種するインフルエンザワクチン接種に関しては対応が同様に難しく、我々としてはこのルールから除外すべきであると考える。我々のクリニックでは、 リツキシマブで治療中の患者全員に対してインフルエンザワクチン接種を毎年行っているが、ただしワクチンの接種は(リツキシマブを)最後に投与した日から可能な 限り時間をおいてから行うように努力している。

EULAR専門委員会は、インフルエンザワクチンと23価肺炎球菌多糖体ワクチンはAIRD患者について強く考慮すべきである、と明記している。これらの勧告は、CDCが2010年に発表したガイドラインとも一致しており、また、米国リウマチ学会(ACR)による2008年の勧告10に重要な拡張を加えたものとなっている。2008年ACR勧告では、インフルエンザワクチン接種は非生物学的DMARDsによる治療を始めている患者に限定され、肺炎球菌ワクチンはレフルノミド、メトトレキサート、もしくはスルファサラジンによる治療を始めている患者に限定されていた。しかしながら、EULAR勧告では、免疫不全状態にある患者における毎年のインフルエンザワクチン接種および5年ごとの肺炎球菌ワクチン再接種 の必要性については、CDC ACIP9および多くの国による予防接種ガイドラインで推奨されているにもかかわらず、言及されていなかった。

破傷風トキソイド、帯状疱疹、およびHPVのワクチン接種に関しては、EULAR専門委員会は、特異的な状況下もしくは特異的な患者サブグループに対して推奨して いる6。帯状疱疹ワクチン接種の推奨については2010年のCDCガイドライン(慢性的な疾患を有する全ての患者に対してワクチン接種を推奨)と一致しており、ACR ワクチン勧告への有益な追加事項となっている。CDCACIP9とは違い、EULAR勧告では水痘への初回感染を予防するために水痘帯状疱疹ウイルスに対する抗体価 のスクリーニングを行うよう助言している。しかしながら、重篤な免疫不全状態にない患者におけるワクチン株による感染に関するデータはないのが現状である。

さらに、米国や多くのヨーロッパの国々においてHPVワクチン接種はSLE患者のみに限らず26歳までの女性全員に推奨されていることを強調しておきたい。EULAR 勧告ではまるでHPVワクチン接種がSLEを有する女性患者のみに対して推奨されているかのように間違って解釈されかねないのだが、国のガイドラインで推奨されて いるならばSLE以外のAIRD女性患者をHPVワクチン接種対象から除外することを支持するエビデンスは何もない、というのが我々の見解である。

ガイドラインを作成した専門委員会のメンバー達が承知していたように、AIRD患者におけるワクチン接種の有効性や有害作用についての有用な研究は数少ない。結 果的に、彼らの記述は部分的に慎重にならざるを得ず、実用的な目的のためであればより明確な表現ができたかもしれない。例をあげると、毎年のインフルエンザ予防接種について、臨床免疫学者が免疫抑制状態にある患者でも明らかに適応であると認識しているにもかかわらず、また何ヵ国ものガイドラインにおいても推奨されているにもかかわらず、彼らはこれを“ 強く考慮する” と助言しているのみなのである。

免疫抑制状態にある患者の健康を改善するためのもう一つの重要な方策として、患者と同居する家族がそれぞれの年齢に適した全てのワクチン(経口生ポリオワクチンを除く)を接種することについては、EULAR勧告では述べられていない。さらに、専門委員会は、HBV感染のリスクが高いAIRD患者に対してのみHBVワクチン接種を推奨している。例えば、HBVウイルスが流行している地域における旅行や居住、医療業務への従事、もしくは静注薬物乱用などである。腎不全になった後ではワクチン接種に対して応答する可能性が低下してしまうため、腎不全のリスクが高いAIRD患者全てに対して一般的にHBVワクチン接種を推奨するのは理にかなうことだろうというのが我々の意見である。この対象には、腎障害とその結果として生じる腎不全のリスクが高いウェゲナー肉芽腫症などの、重度の血管炎を有する患者も含まれる。

これらの数少ない制限はあるものの、この新たな勧告は免疫抑制療法の合併症に対する戦いにおける大きな前進の一歩であり、AIRD患者にワクチン接種を行う 必要性に関して医師の議論を支援するものであることから、我々はEULAR専門委員会のメンバーに対する賞賛を惜しまない。この勧告は極めて実用的なものだが、 AIRD患者におけるワクチン接種の有効性に関する研究結果が明らかになれば、さらに改善することであろう。実際に、専門委員会のメンバーらは3年ごとに勧告を改 訂することを提案している。この勧告が成功を収めたかどうかは、現在のインフルエンザおよび肺炎球菌のワクチン接種率を今後数年間のものと比較することで、容 易に評価できるだろう。我々はこの新たな勧告がきっかけとなりAIRD患者におけるワクチン接種率が増加すると 考え、また期待している。

doi:10.1038/nrrheum.2011.14

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