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変形性関節症:早期変形性膝関節症に対する筋力増強訓練と自己管理およびその併用

Nature Reviews Rheumatology

2010年6月1日

Osteoarthritis Strength training, self-management or both for early knee OA

運動介入および行動介入は、進行期変形性膝関節症(膝OA)の症状を改善することが示されているが、座りがちな生活が多く占める中年の早期OA患者に対しても、いずれかの施行または併用施行の効果はあるのだろうか?

変形性膝関節症(膝OA)は、よくみられる慢性の関節疾患であり、長期の身体障害を引き起こす主要な原因である。膝OAの管理においては薬物以外の保存的療法が中心と なっており、運動は疼痛と機能を改善するため、臨床ガイドラインで推奨されている。また、自己管理対策をすることによって自己効力感を高め、患者に自らの健康管理に積 極的に参加させる働きにも注目が集まっているが、論文ではこのアプローチのeff ect sizeは概して小さいことが報告されている。運動プログラムと自己管理プログラムが、それぞれ膝OAの異なる側面に働きかけることを考慮すると、どちらか一方のみ行うより、併用したほうがより有効だと考えられる。しかし驚くべきことに、35~64歳の座りがちな生活の多い早期膝OA患者273例を、筋力強化訓練プログラム、自己管理プログラム、またはその併用に割り付けたMcKnightら6の研究ではこの仮説は裏付けられなかった。 とはいうものの、この研究は、より若年の早期OA患者に焦点を当てたことや、多様な治療プログラムを評価したこと、またアドヒアランスと長期転帰の評価のために2年間の 治療を継続したことから、新知見を提供してくれている。

OA研究は通常、重度の症状と機能障害のある高齢の進行期患者に焦点を当てて行われているが、今回の研究で対象となった患者群は、症状が軽度の早期膝OA患者であっ た。早期疾患を標的とした治療は、症状と解剖学的変性の進行を抑えるという側面から重要である。しかし本研究では、膝関節変性に対する治療効果を評価するX線検査や MRIは行われなかった。

3種類の治療プログラムは、集中的に患者と接触する9ヵ月間の第一期と、その後の、接触を徐々に減らす15ヵ月間の第二期から構成された。よく行われている臨床診療と同 様に、筋力増強・バランス・可動域・柔軟性を目的とした低~中強度の運動プログラムでは、第一期に監督下でのセッションを行い、第二期に自己主導型の運動を行った。参加 者が健康であり、比較的若齢で症状が軽度であったことを考慮すると、より強度のプログラムを行うことができたと思われる。運動のタイプは治療効果に影響を与えないと考えられているが、運動強度の影響はあまり検討されていない。自己管理プログラムでは、週1回90分間のスクールセッションを12週間行い、その後、第一期には毎週電話で自己管 理の状況を確認した。第二期では、電話の頻度を減らした。このプログラムでは、コーピングスキルおよび自己効力感スキルに関する教育と、運動に関する一般的なアドバイスが行なわれた。これらの治療プログラムは比較的時間集約的かつ資源集約的であるため、公的医療制度では同レベルの治療は行えないと考えられる。

2年後、運動により、身体機能と強度、自己評価による疼痛と身体障害の程度に有意な改善が認められた。事実、運動群の65%と70%がそれぞれ、疼痛と身体機能における 臨床的に有意なベネフィットを報告した。これらの良好な結果は、高齢OA患者を対象とした研究と同等であった。自己管理プログラムも有益であったという事実は、重要な結果 である。というのも、他のOA自己管理プログラムは、必ずしも有効ではなかったためである。この結果の相違は、自己管理アプローチの内容、施行法、期間の差が異なってい るのが影響しているのかもしれない。予想に反して、これらの2つの方法を併用しても相加的な効果はなかった。これは、ベースラインの疼痛と身体障害のレベルが比較的低 く、改善の余地が少なかったことによる可能性がある。この結果から、疼痛や機能、筋肉強度などの臨床効果を改善するには、運動か自己管理のいずれかを用いればよいこ とがわかるが、われわれは、運動には健康へのベネフィットが他にも数多くあるという重要性を強調したい。しかし、大半の参加者に疼痛と機能の臨床的に有意な改善が認められたものの、いずれの治療でも一部(30%~44%)の患者には無効であったことは留意すべきである。

アドヒアランスは長期療養における大きな課題である。アドヒアランスレベルは結果と関連するため、アドヒアランスを得ることは特に重要である。本研究では、全体的な アドヒアランス率は、監督下で行った第一期の68%から自己主導で行わせた第二期の50%までの範囲であった。これは、他の研究で報告されている率と全体的に同等であり、 アドヒアランスを維持するためにセラピストとの接触を継続する必要性が示された。しかし、アドヒアランス率は試験期間を通じて低下したが、監督下で行った第一期に達成さ れた症状改善は2年間の追跡調査中後退することはなかった。セラピストとの接触が少なく、アドヒアランス率が低くても臨床的ベネフィットが長期間継続することを示している ことから、この結果は、公衆衛生上意義がある。

この研究は全般的に良好に実施され、治療群間の臨床的に有意な差を検出する上で十分な検出力があったが、方法上の問題がいくつかあった。対照群が設定されなかった ため、3つの治療群で認められた有益な効果が、個別または併用で実施された療法に起因するのか、あるいは単に試験実施者の注意を引いたからなのか、膝OAの自然経過に よるものなのかを判定できなかった。さらに、転帰評価者は治療に関して盲検化されていなかった。これは臨床試験における大きなバイアスの原因となり得る。前述のように、 アドヒアランス率は比較的低く(特に第二期)、かなりの割合の参加者(26%)が2年間の試験を完了できなかった。以上のような問題はあるが、このような性格の長期試験を実施することの難しさを考慮する必要がある。

この研究は、今後検討すべき研究領域を明らかにしている。第一に、関節破壊の進行を遅らせるための二次予防戦略の理想的な対象は、早期OA患者である。現在、疾患の 進行を明確に改善できる薬物的および非薬物的治療法はない。第二に、膝OA患者において運動に対する長期アドヒアランスの障壁、およびアドヒアランス向上に必要なことを 理解するために、行動研究が必要である。一部の研究では、自己効力感、介入への信頼感、疾患進行の理解などの因子が、アドヒアランスレベルに影響を与えることが示されて いる。しかし、より若くて健康な軽度OA患者においては異なる因子が作用する可能性がある。したがって、アドヒアランスを向上させるための戦略を開発し評価することは、 将来の研究の重要な課題である。第三に、一部の患者(約40%)では治療が有効ではなかったことから、どのような予測要因が、より良好な結果を導くのかを評価することは、 より適切な対象を選択するのに有用であると考えられる。

doi:10.1038/nrrheum.2010.49

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