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治療:p38 MAPK阻害薬のまだ果たされていない約束

Nature Reviews Rheumatology

2009年9月1日

Therapy The as-yet unfulfilled promise of p38 MAPK inhibitors

p38α MAPKの新規低分子阻害薬であるVX-702に関する臨床試験で、ある程度の臨床効果と一過性の炎症マーカー阻害という非常にありふれた結果が得られた。p38α阻害薬はなぜ奏効しないのだろうか。また、炎症性関節炎におけるシグナル伝達経路の制御について我々は何を学べばよいのだろうか。

関節リウマチ(RA)の病因に関する知識が増え、続いて生物学的製剤による標的治療が開発された結果、治療は飛躍的進歩を遂げた。ところが、このような高価な治療はすべての患者に効果があるわけではなく、治療を中止すると効果が持続しない。医薬品開発研究者は、費用対効果の高い経口RA治療薬を目指して新しい標的を追求し続け、数え切れないほどのシグナル伝達経路阻害薬を設計している。

低分子シグナル伝達阻害薬は受容体、キナーゼまたは転写因子の生物学的機能を認識・調節する。このような阻害の標的となるp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達カスケードは、ストレス、病原体、サイトカインに対する細胞の反応を介して炎症に関与する。4種類のp38アイソフォーム(α、β、γ、δ)のうち、p38αは、RA滑膜で高度に発現されて活性化され、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン(IL)-6およびIL-1の産生を通して炎症を調整することから、RA治療の標的として特定されている1。初期世代のp38阻害薬(BIRB796、SCIO469など)は特異度が低く用量依存性の毒性が発現したため、ある程度の成功しか得られなかった。最近、効力および特異度がともに高い新世代のp38阻害薬(VX-702、pamapimodなど)が評価されており、関節炎動物モデルでの有効性が示されている。

Arthritis & Rheumatism 2009年5月号でDamjanovら2は、中等度~重度RA患者を対象に実施されたp38αの高選択的競合的阻害薬であるVX-702の12週間におよぶ第II相二重盲検プラセボ対照臨床試験2件の結果を報告している。VeRA試験では、313例にVX-7025mg/日または10mg/日、あるいはプラセボを投与した。304試験では、117例に一定用量のメトトレキサートと併用して、VX-702 10mg/日の12週間投与、または1週間投与後、残りの11週間は週2回投与(「間欠」投与群)、あるいはプラセボ投与を行った。VeRA試験では、12週後に米国リウマチ学会による20%改善(ACR20)基準を満たした患者の割合には、VX-702投与群とプラセボ投与群で有意差は認められなかった。304試験では、VX-702間欠投与群のみがプラセボ投与群よりも有意に高いACR20を達成した(44% vs 22%、P =0.047)。

両試験とも、VX-702投与は2週目という早期に圧痛関節・腫脹関節数の減少をもたらした。しかし、ACR20は4週目までに横ばいになった。過去のp38α阻害薬の試験と同様、VeRA試験では、炎症性バイオマーカーは、VX-702投与後1週間以内の赤血球沈降速度(ESR)およびC反応性蛋白(CRP)、アミロイドA、可溶性55kDa TNF受容体の血清濃度の一過性の低下という特徴を呈した。これらのバイオマーカーは2週目以降にベースライン値に戻り始め、12週目までにベースライン値またはそれに近い値を示した。304試験でも、VX-702 10 mg/日投与群で同様の一過性のバイオマーカーの変化パターンが認められた。特筆すべきことは、VX-702 10mg間欠投与群では、CRP値が2週目までにベー スライン値に戻り、12週目までその状態を維持したことである。VX-702間欠投与によるこのバイオマーカーへの効果は、CRPがp38α阻害から逃れる可能性は阻害薬の代謝とは無関係であることを示している。炎症反応がp38阻害回避能を獲得する機序をさらに検討すれば、シグナル伝達経路の制御および相互作用を理解できるようになるだろう。

多数のp38α阻害薬が第I相、第II相臨床試験で評価されており、新世代の薬物は初期の薬物よりも高い選択性および効力を有するにもかかわらず、RAにおける臨床効果はそれほど高くないことが報告されている。p38およびp38αの阻害薬の一部(SCIO469、BIRB796、pamapimod4など)には炎症性バイオマーカーを一過性に阻害する効果しかない。興味深いことに、VX-702はカテーテル留置後の急性冠症候群患者に臨床的に有効であり5、in vitroでBIRB796を投与すると、末梢血単核細胞によりリポ多糖類誘発性の好炎症 性サイトカイン生成が抑制された6。RAにおけるこの期待はずれの結果は、p38α阻害が、RAでみられる慢性の炎症よりもこうした急性炎症の例をより良好に抑制することで説明できよう。別の説明としては、p38阻害薬は、第一世代化合物のBIRB796と同様に、薬物の毒性により用量が制限される傾向がある。しかし、用量が制限されているために、より新しい世代のp38α阻害薬への反応が十分でないとは考えにくい。なぜなら、効果、薬理作用およびバイオマーカーの変化に対する最大濃度の研究に基づくと、試験用量のVX-702ではシグナル伝達が十分に抑制されたからである。関節内においてはVX-702の濃度が滑膜の炎症を抑制するには十分ではない可能性もあるが、血清‐関節関門は存在しないため、低分子の関節内の有効濃度は血清中の有効濃度と同程度でなければならず、この説明はあまり成り立ちそうにない。

他にもいくつかの因子がp38α阻害薬の効果を制限する可能性がある。p38 MAPKは、TNFおよびインターフェロンγなどの好炎症性サイトカインの産生を抑制するIL-10による抗炎症作用を仲介する。既報6では、BIRB796で前処理したところ、リポ多糖類で刺激した末梢血単核細胞によるIL-10産生は有意な低下を示した。IL-10による効果に加え、p38の相対的な作用は細胞系列および微小環境に特異的であると考えられる。IL-10のサイトカインに対する作用と同様に、他の抗炎症性サイトカインや負のシグナル伝達制御物質はp38 阻害に反応して減少する可能性がある。MAPKシグナル伝達内の複雑さや交差の程度、さらには核因子κBシグナル伝達のような経路内での移動も、p38阻害薬の効果がそれほど高くないことの説明となろう。p38αはTNF、IL-6、IL-1、マトリックスメタロプロテアーゼに対する効果の標的とされた。しかし、p38αの濃度が低下すると、疼痛や炎症において種々の働きをもつ他のp38アイソフォームの産生が亢進されるというように代償性の移動が生じる可能性がある。

VX-702への反応が不十分な理由として考えられる他の理由は、血液脳関門を通過できないため、中枢神経系(CNS)において末梢の炎症を制御する鎮痛・抗炎症効果を発揮できないことである。p38阻害薬SB203580の髄腔内投与によりラットアジュバント関節炎における足の腫脹、滑膜炎、X線上の関節破壊所見は減少したが、同量のSB203580の全身投与では効果が得られず、関節炎の抑制はCNSでのSB203580の局所濃度に依存していることが示された。このため、CNSに移行できないことからVX-702は制限を受ける可能性 がある。初期世代のp38阻害薬VX-745はCNSに移行したが、ヒトで胃腸毒性・肝毒性作用、動物で神経毒性作用が認められたため、開発中止に至った。これらの出来事により、医薬品開発の目標は、特異度改善のためにp38αを標的とすること、毒性抑制のためにCNS移行を制限することに切り替わった。

特異度の改善にもかかわらず、残念ながら、RAにおけるp38 MAPK阻害薬の効果は期待はずれであった。また、毒性の抑制にもかかわらず、同薬に対する反応は相変わらず不十分であるか、またはあまり持続しない。p38はRAの発症に関与していない可能性もある。ヒトのRAに類似したげっ歯類モデルが作製されたが、マウスまたはラットにおいては真の意味でRAに発展することはなかった。動物モデルは標的の予測と治療に関する試験を可能にするが、RA患者と同じ関節炎にはならない。p38阻害薬はRAに対する有効な治療と思われず、今後臨床使用が追求される可能性は低いだろう。

炎症性バイオマーカーの一過性の応答は興味深いものであり、p38 MAPK経路の制御をさらに深く理解し、低分子フィードバック反応を予測するために評価を行うべきである。毒性を抑制しながら抗炎症反応を改善・持続させるためには、おそらくMAPKファミリーのサブグループを特異的に制限する細胞表面に近い上流のキナーゼがより適した標的である。さらに、医薬品開発ルートにおけるキナーゼ阻害薬のうち、上流のヤヌスキナーゼ(JAK)および脾臓チロシンキナーゼ(Syk)という標的は、細胞表面にさらに近く、APKファミリーよりも有望な標的と考えられる。腫瘍に対するキナーゼ阻害薬の成功から、自己免疫疾患における低分子薬の役割が示唆される。しかし、RA患者では、検討した低分子阻害薬に対する臨床反応と、生物学的製剤(TNF阻害薬)で達成された臨床反応は同等でない。現在RA治療に用いられている生物学的製剤の有効性と安全性を達成するような低分子阻害薬を目指して探索が続けられている。

doi:10.1038/nrrheum.2009.171

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