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運動障害:心因性運動障害:神経内科医は何をなすべきか?

Nature Reviews Neurology

2009年8月1日

Movement disorders Psychogenic movement disorders what do neurologists do?

心因性運動障害患者は通常神経内科医によって診断され、治療は精神科医に紹介される。運動障害学会(Movement Disorder Society)の会員を対象とした調査は、このような患者において、専門分野を超えた治療が困難であることを浮き彫りにしている。この調査結果は、『精神障害の診断と統計の手引き』(DSM)における転換性障害の新たな基準の作成に影響を与えるものである。

心因性運動障害(PMD)患者は、振戦、四肢の固定姿勢〔典型的には足部内反、握り拳(clenched fist):図1〕、舞踏様運動、またはその他の異常運動の組み合わせを示す。検査では通常、運動は、確認された神経疾患と内因的に整合性に欠けるか、または不一致であることが示される。従来、PMD や他の転換性症状は、厳密には臨床神経学の範疇に入ると考えられてはいなかったが、これらのプロファイルは徐々にこの分野に含まれるようになってきた。これらタイプの疾患は頻度が高く、神経内科医が正しく認識し始めたように、医学的知識を駆使でき、治療成果が得られるとやりがいを感じるものである。さらに、PMD の機能的イメージング研究1 や神経生理学的研究2 は、過去100 年間の純粋な精神力動的視点から脱却し、根底にある病因およびメカニズム3 の「多面的」認識を促進している。しかし、PMD 患者をいかに診断、分類、管理するかという臨床上の現実など、多くのことが依然として明らかにされていない。

Espay ら4 は、運動障害学会の会員を対象に、PMDの診断の実施、伝達および管理の仕方に関する22 項目のオンラインアンケートによる調査を行った。調査には、医師と患者に用いる用語、および転帰の予測因 子に関する質問も含まれていた。結果は、神経内科医および精神科医の両方にとって、この分野のさらなる調査を行い、研究方法において現在欠けていると思われる整合性をある程度達成することを要求するものであった。

全世界の神経内科医から519 件の回答があり、43%は米国を拠点としている医師であった。この研究4の特筆すべき所見は、PMD の診断を下す際、神経内科医は、患者に精神病の既往歴があるかどうかに特に 興味を抱いていないことであった。実際、PMD の診断にあたり、情動障害の所見を必要とした回答者はわずかに18%、精神障害の明確な徴候を必要とした回答者は8%のみであった。このような低い割合は、直 観的あるいはそうでないにしろ、PMD または他の転換性障害を有する患者の一部は少数ながら、検出できるような精神障害または人格障害を有さないという認識を部分的に反映したものと考えられる。「心因性 徴候陽性」および「認識された疾患との不一致」は、回答者がPMD の診断を下すために最も一般的に用いた基準であった。

Espay らの研究5 は、神経内科医と精神科医の間の理解の格差にも焦点を当てており、これは、両科がPMD 患者についてしばしば反目する原因の説明となろう。神経内科医はしばしば、PMD 患者を診ている 精神科医は「精神障害はない」とのコメントを付けて患者を送り返す傾向があるという不満を漏らしている。Espay らは、この現象を初めて定量化した。精神科医はしばしば(14%)または時に(35%)神経内 科医による診断に疑問を呈し、再考することを勧めている。精神科医は、転換性障害に対する『精神障害の診断と統計の手引き第4 版』(DSM-IVⓇ ; American Psychiatric Publishing, Inc., Arlington, VA)の基準6は心理的ストレス因子の存在を必要としているとして(正しく)反論することができる。そのようなストレス因子が認められない場合、精神科医は、患者には精 神障害がなく、したがって神経内科医は間違っていると結論づけるであろう。しかし、われわれ自身の経験では、多くの「非専門家」の精神科医および心理学者は、PMD の診断がどのように行われるかを本当に理 解していないため、PMD の診断に疑問をいだいている。この一因は、心理的因子をきわめて重視し、神経内科医が用いている振戦の位相同期またはフーヴァー徴候7 などの身体症状の不一致があることには触れていない現在のDSM-IVⓇの基準の問題である。

今回、神経内科医と患者間におけるさらなる格差は、用語の分野で示された4。神経内科医の83%は「心因性運動障害」という用語を医師間で使用したが、患者に対して使用したのは59%のみであった。一方、「ストレス関連」という用語を医師間で使用していたのは10%のみであったが、患者に対しては67%が使用していた。DSM-IVⓇ用語の「転換性障害」を医師間で実際に使用していた神経内科医は34%のみであった。興味深いことに、神経内科医が転帰を予測すると考えるすべての因子のなかで第一位を占めたのは「診断の受け入れ」であり、「患者の教育」が2 番目に最も効果的と認識された処置(「医原性の害の回避」後)であった。この分野の初心者であれば、当然のことながら、運動障害の専門家に対し、「それで、あなたはこれを何と呼ぶかを決めることはできず、話し相手が患者かまたは医師かによって異なった用語を用いている。あなたは、しばしばあなたとは全く異なった見方で問題を捉え、最初にどのようにして診断したかが理解できない精神科医に患者を紹介している。それにもかかわらず、あなたは、患者を教育し、診断を受け入れるよう援助することが回復のうえで最も重要であると考えているのか?」と質問するかもしれない。

PMD の患者に関し、これまで神経内科医と精神科医との会話があまりにも少なかった。1 つの出発点は、臨床診療におけるこれら疾患の診断法をより正確に反映した診断基準を見出すことであるだろう。現在、DSM の改訂が行われており、DSM-V が2012 年に公表される予定である8。Espay らのデータは、臨床診療と既存の基準間との相違に焦点を当てている。多くの患者が「診療する医者がいない状態」に置かれ、心理的ストレス因子が認められないという理由で精神科医から拒否されている。この要件が新たなDSM-Vの基準から取り除かれ、理学的所見に基づく診断を行うことの重要性を強調することにより、しばしば患者に対して欠けていた専門的一貫性が達成できると考えられる。用語にも依然として問題があり、未解決のままである。すなわち、神経内科医は明らかに「転換性障害」という用語は使用しておらず、「心因性運動障害」は明らかな神経基盤が脳内に存在する場合には問題となりうる用語であり、「機能的運動障害」はしばしば、患者には好まれるとしても、幅広いために有用な用語とはみなされない。

勇気づけられることに、Espay らの研究4 に参加した神経内科医の3 分の2 は、担当した患者の経過観察を自ら実施すると記している。大まかに言えば、この結果は、神経内科学と精神医学の間にある人為的な壁を打破することに興味を持った一群の神経内科医が存在することを反映している。今回のデータには、この種の調査に通常付随する限界がある。すなわち、低い回答率(学会員の約25%)、回答バイアス(興味のない人が参加する確率は低い)、回答者の診療に関する認識が実際の診療に反映される度合、および他の神経内科医への一般化がむずかしいこと、などである。とはいえ、治療の有効性に関する認識の度合(例えば、教育、精神療法、身体リハビリテーション)、および認識されている予後因子(例えば、診断の承認、共存精神疾患の治療、症状の短い潜時)に関するデータは、説得力 のある形でランク付けされている。もし、この特定グループが全体として所有している知恵が正確であるなら、将来、Espay らの研究結果と無作為化対照治療試験の結果を比較することは興味深いことにちがいない。現在まで、PMD に対する治療の無作為化対照試験は行われておらず、転換性障害の全領域において、一握りの小規模な試験が行われているに過ぎない。

PMD は、依然として答えよりも疑問の方が多い分野である。Espay らは、これら疑問のいくつかを役立つように明確に示し、現在、PMD がどのように認識、診断、そして治療されているかについてコンセンサスが得られていないことを明らかにしてくれた。

doi:10.1038/nrneurol.2009.108

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