Year In Review

下垂体腫瘍の新たな治療法の時代

Nature Reviews Endocrinology

2011年1月24日

PITUITARY TUMORS IN 2010 A new therapeutic era for pituitary tumors

下垂体腫瘍の内科的治療は新たな時代に入りつつある。下垂体腫瘍を直接の標的にする新規化合物が,治療不応例またはクッシング病再発例および末端肥大症例で有望であることが示された。また,アルキル化剤temozolomide は,浸潤性下垂体腺腫または癌に対して臨床上有効である。

ここ数年の間に,下垂体腫瘍形成を調節するシグナル伝達経路の理解が深まったことで,2010 年は下垂体腫瘍の治療のための新規化合物の開発が大幅に進歩した。本年に発表された研究では,pasireotide によるクッシング病の治療,およびpasireotide とBIM-23A760 による末端肥大症の治療可能性が明らかにされた。さらに,経口化学療法薬temozolomide は,浸潤性下 垂体腫瘍の治療に希望を与える可能性がある。

最適な治療選択肢(手術,内科的治療,放射線治療)は患者ごとの下垂体腫瘍の種類に大きく左右される。ドーパミン作動薬およびソマトスタチン類似体は,それぞれ,プロラクチン産生下垂体腺腫および成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫の大半の内科的コントロールを得るために用いられ,これらの薬剤は現在,上記腫瘍に対する第一選択薬として頻繁に用いられている。しかし,octreotide やlanreotide などの,現行のソマトスタチン類似体で,完全な生化学的コントロールが得られるのは,末端肥大症患者の約65% のみである。GH 受容体拮抗薬であるpegvisomant は,難治性末端 肥大症患者において,血清インスリン様成長因子1 濃度の正常化を大半の患者で認めるなど,良好な結果が示されている。治療上のコントロールは,octreotide およびlanreotide により最大65% の患者で得られるが,pegvisomant は,octreotide およびlanreotide が無効な難治性末端肥大症患者で使用されることから, この薬剤の効果は極めて重要である。副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫を特異的に標的とする薬剤がなければ,クッシング病は,外科的治療が無効であるか,患者の30 ~ 50% では術後に再発する。最後に,隣接臓器に局所的に浸潤する浸潤性の下垂体腺腫,および主に副腎皮質刺激ホルモンまたはプロラクチンを分泌する極めてまれな癌(すべての下垂体腫瘍のうち約0.2%)は,いかなる治療にもほとんど反応しないため,管理が非常に難しい。

新規ソマトスタチン類似体であるpasireotide は,ソマトスタチン受容体サブタイプ1,2,3 に対して親和性があり,octreotide やlanreotide とは異なり,ソマ トスタチン受容体サブタイプ5にも高い親和性がある。Pasireotide は,下垂体腺腫を標的とする初の治療用化合物であり,正式にはクッシング病患者を対象とした臨床試験で用いられる。このソマトスタチン類似体が持つ,クッッシング病患者群に対する潜在力は,ほとんどの副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍が主にソマトスタチン受容体サブタイプ2 よりもサブタイプ5 を発現 させるという事実から示唆される。加えて,これがoctreotide とlanreotide がクッシング病に無効である理由の1 つでもあるのだが,ソマトスタチン受容体サブタイプ2 とは異なり,ソマトスタチン受容体サブタイプ5 は,高コルチゾール血症の間は下方制御されない。

2009 年に公表された最初の第II 相試験では,新規,持続性または再発性のクッシング病患者39 例に,一次治療または二次治療としてpasireotide 600μg 1 日2 回を15 日間投与した1。尿中遊離コルチゾール(UFC)値の低下を,主要有効性評価対象コホートの29 例のうち76% で認め,UFC 値の正常化は5 例(17%)で認めた。

Colao らは2,pasireotide の投与量無作為化第III相試験を実施し,本試験では,持続性,再発性,または新規クッシング病患者162 例を対象に,pasireotide 600μg または900μg 1 日2 回を12 ヵ月投与した。6 ヵ月時点の予備結果では,最初の2 ヵ月間で60% を上回るUFC 値の低下を大半の患者で認めたが,UFC の正常化に至った患者数はわずかであり(pasireotide600μg 14.6% および900μg 26.3%),治療開始12 ヵ月以降に新たに治療反応性を示した患者はいなかった。関連した臨床症状の改善は,すべての患者で確認され た。最も重篤な有害事象は,高血糖(患者の40%)および副腎皮質ホルモン低下症(患者の8%)であった。

Pasireotide は,生化学的コントロールを得た上で二次的影響を低減するために,cabergoline などの他の薬剤と併用して使用できるため,これらの結果は有望である。Pasireotide とcabergoline 併用により,副腎を標的とするステロイド産生阻害であるketoconazole の追加の有無にかかわらず,pasireotide 単剤でUFC 値が正常化した29% に加えて,治療開始1 ~ 2 ヵ月後に クッシング病患者のUFC 値の正常化が,cabergoline併用群24% およびcabergoline とketoconazole 併用群35% で認められた3。臨床症状の改善も認めた。しかし,高血糖は懸念事項であることから,pasireotideとcabergoline の併用療法の長期試験の結果は,大きな関心を呼ぶと思われる。

末端肥大症例を対象とした第II 相クロスオーバー試験では,外科出術を受けたか,または手術が不可能な活動性末端肥大症患者では,pasireotide により,octreotide 皮下投与よりも優れた結果が得られた。pasireotide 200 ~ 600μg 1 日2 回を3 ヵ月間投与後,51 例中27% が完全な生化学的反応に至り,一方で39% の患者で腫瘍縮小率が20% を超えた。現在,デポ製剤(長時間作用型徐放剤pasireotide)の長期試験の結果が待たれている。

BIM-23A760 も,末端肥大症治療薬の1 つであり,その他の下垂体腫瘍の治療薬にもなり得る薬剤である。この化合物は,ソマトスタチン受容体(サブタイプ2, および弱いもののサブタイプ5)およびドーパミン2 受容体を同時標的とするよう設計されたキメラ分子である。ドーパミンまたはソマトスタチン作動薬とは対照的に,BIM-23A760 は,ソマトスタチン受容体およびドーパミン受容体から成るヘテロ二量体化受容体も標的とする。さらに,前臨床試験では,BIM-23A760 が細胞成長と増殖を阻害し,非機能性下垂体腫瘍でアポトーシスを誘導することが示されている。活動性末端肥大症患者11 例に対しBIM-23A760 による治療を2 週間実施した第II 相臨床試験の予備結果では,インスリン様成長因子1 値への影響はわずかであったものの,血清GH 値の有意な低下が示され,9 例でGH値が50% を超えて低下した6。しかし2010 年12 月15 日,Ipsen 社は進行中の第II 相試験の予備データから,強力なドーパミン作用が示されたが,ソマトスタチン作用の証拠は乏しいと発表した。結果的に,Ipsen社はBIM-23A760 の開発中止を決めた。

経口アルキル化プロドラッグであるtemozolomide は,循環血中で活性化したdacarbazine に変換され, DNA 修復を阻害する。この化学療法剤は,悪性神経膠腫の標準治療薬となっており,さらにtemozolomide は浸潤性下垂体腫瘍の一部の管理に用いられ成功している。フランスの多施設試験では,下垂体癌患者5 例および下垂体腺腫患者3 例を対象に,temozolomide 4 ~ 24 サイクル(全サイクル)の治療を行った。 患者のうち3 名はtemozolomide が奏効し,顕著な腫瘍縮小およびホルモン値の低下が示された。

初期の報告では,temozolomide に対する反応は, 腫瘍のDNA 修復酵素O6-methylguanine-DNA methyltransferase( MGMT)の発現に逆相関していたことが示唆された。腫瘍におけるこの酵素の発現低下, これによるtemozolomide に対する良好な反応は, MGMT 遺伝子プロモーターがメチル化した際に起こると考えられる。興味深いことに,フランスの試験では, MGMT プロモーターのメチル化および発現状況と治療反応性の相関関係は認められなかった。重要なことは,3 サイクルのみの血液療法後,temozolomideに対する治療反応性が早期に確認し得ることである7。 つまり,temozolomide に対する治療反応性は, MGMT 遺伝子メチル化および/または発現によって確認できるかどうかは分からないが,非常に早期に評価可能なのである。アメリカのグループも,temozolomide に対する臨床反応,MGMT プロモーターのメチル化と発現状況の間に相関がないと報告している。長期temozolomide 投与を受けた浸潤性進行性下垂体腫瘍患者7 例のうち,2 例が腫瘍体積の減少に ついて治療反応を認め,4 例が安定,1 例に転移性疾患進行を認めた。

下垂体腫瘍の内科的治療にとって,2010 年は新しい時代の到来を告げた。クッシング病患者に対するpasireotide の有効性が証明されたことで,下垂体腺腫を標的とする興奮するような新規治療に期待が高まる。反応患者では,生化学的パラメーターの正常化が早期に得られた。しかし,この正常化を認めたのは比較的 少数の患者に限られていたという認識によって,強い関心は抑えられるだろう。それでもなお,現行のソマトスタチン類似体が有効でない活動性末端肥大症患者に対する,pasireotide 療法は有効であると考えられ, pegvisomant との併用療法を用いることで疾患コントロールはさらに最適化される可能性がある。Temozolomide は忍容性が高く,浸潤性下垂体腫瘍に対して他の治療選択肢が奏効しなかった際に,有効な化学療法となる場合が多いが,治療期間については確立する必要があり,長期追跡が不可欠である。Temozolomide に対する治療反応性の予後バイオマーカーとしてのMGMT 発現状況の役割についても更なる評価が必要である。2011 年が下垂体腫瘍の分野に何をもたらすか,心待ちにしている。

doi:10.1038/nrendo.2010.233

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