Research Highlights

……それと、上等のキアンティ

Nature Reviews Cancer

2008年2月1日

..and a nice Chianti

腫瘍細胞には、まるでハンニバル-レクターのような食人的素質があり、共食い細胞の様相を呈する。M OverholtzerとJ Bruggeらは現在、この過程を調べることに着手しており、その「犠牲者」が進んで犠牲になっていることを突き止めている。

非接着条件下でMCF10Aヒト乳腺上皮細胞の挙動を調べる中で、Overholtzerは、少数の細胞が隣接する細胞内に入り込んでいるようにみえることに気付いた。赤または緑の蛍光染料Cell Trackerにより細胞を標識するか、または細胞表面ビオチン化法を実施したところ、一部の細胞が別の細胞内に完全に入り込むのが確認された。Overholtzerらは、これが通常とは異なる形のアポトーシスかどうかを検討したが、アポトーシス細胞死および貪食経路を阻止することがわかっている標準の阻害因子は、細胞の内部移行に何ら作用を示さなかった。腫瘍形成性であるかどうかにかかわらず、さまざまな上皮細胞系では、これと似た所見が得られている。

経時データの多くは、内部移行する細胞が積極的に内部移行過程に関与していることを示しているため、Overholtzerらは、アクチン重合および/またはミオシンII収縮が必要かどうかを調べた。両細胞骨格成分の阻害因子が内部移行を妨げたことから、さらに実験を重ね、アクチンおよびミオシンIIの調節因子として重要なRho-ROCK経路が、内部移行する細胞でのみ必要であることを明らかにした。以上の所見を踏まえ、Overholtzerらは、この過程をギリシャ語で「内部へ」、「内側へ」を意味するentosから、エントーシスと名づけた。

また、経時データからは、内部移行細胞がエントーシスの前に外側の細胞と接着結合するらしいこともわかった。そこで、このような細胞間結合を起こすのに必要なカドヘリンの機能を調べた。カドヘリンが機能するにはカルシウムが必要で、カルシウムキレート化剤または抗カドヘリン抗体の存在下ではエントーシスが遮断された。

では、エントーシス細胞には何が起きているのだろうか。最も一般的な運命は、リソソーム成分が関与する非アポトーシス機序による死であったが、リソソーム経路を阻害するとエントーシス細胞がアポトーシスを起こした。20時間を経過しても目立った変化のない内部移行細胞もあり、外側の細胞から放出されたものも若干ある。

Overholtzerらは、乳がん患者の胸水から採取した8検体中7検体の転移性乳がん細胞に、類似した挙動を確認することができた。さらに、ヒト原発性乳がんをはじめとするさまざまな充実性腫瘍20検体中11検体でも、エントーシスの証拠が見つかった。

ではなぜ、エントーシスが起こるのだろうか。OverholtzerとBruggeらは、ミオシンII依存性の力には対抗するものがないことから、両細胞間の接着結合の形成にかかわるミオシンII依存性の力が、一方の細胞をもう一方の細胞内へ押しやるのだとしている。Overholtzerらは、通常であれば、ミオシンIIの活動のバランスが、インテグリンを介する基底膜への接着によって保たれると考えている。それでもわからないのが、腫瘍でこの過程が生じる生物学的な理由であるが、Overholtzerらは、基底膜に接着しなくなったのに、その結果としてアノイキス(特殊なアポトーシス)が起こらない細胞を処分する腫瘍抑制機能ではないかと考えている。さまざまな仮説を探っていくには、今後も研究を重ねる必要がある。

doi:10.1038/nrc2313

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