Research Highlights

胃に悪い

Nature Reviews Cancer

2002年5月1日

世界中で癌による死因の第2位を占める胃癌の環境危険因子についてはよく知られて いるが、胃癌の分子遺伝学的要因については何がわかっているのか。いくつかの染色 体異常の関与が指摘されてきたが、染色体の変化の重要性および胃癌に関与する特定 の遺伝子については、あまりわかっていない。ところが今回、遺伝子欠損マウスを使 った研究で、ヒトの進行性胃癌のうち高い割合で不活性化されている癌抑制遺伝子候 哺乳類の転写因子のなかに、トランスフォーミング増殖因子‐β(TGF-β)受容体か らの情報を伝達する小さいファミリーがある。この転写因子は、SMAD転写因子と共同 で作用して細胞増殖を抑制し、アポトーシスを促進する。RUNX1は造血に必要で、こ の遺伝子のヘテロ接合変異を受け継いでいる個体は急性骨髄性白血病を発症する。 RUNX2は骨形成に必要である。Quing-Lin Liらは、遺伝子欠損マウス(ノックアウト マウス)を解析することによってRunx3の機能の研究に着手した。

iらは最初に、誕生直後に死亡するRunx3遺伝子欠損マウスの胃粘膜が野生型マ ウスの2倍も厚くなっていることを観察した。これは、胃粘膜過形成を示している。 Runx3遺伝子欠損マウスの胃上皮細胞は、野生型マウスの胃上皮細胞よりも細胞 培養での増殖が速く、TGF-βのアポトーシス誘導効果に応答しなかった。ヒトの胃癌 細胞では、TGF-β受容体を指令する遺伝子の欠損が観察されている。Runx3の欠 損も胃癌と関連があるのだろうか?

unx3は正常な胃上皮細胞では発現されていたが、調べた胃癌細胞系ではいずれ も発現は検出されず、胃癌の初代培養標本では発現が減少していた。Runx3発現 は初期癌腫の40%で減少していたが、発現が減少する癌腫の割合は進行性症例ではほ ぼ90%に増加した。Runx3発現の消失は、癌細胞系でも初代腫瘍標本でもRunx3の過剰メチル化の結果だった。ところが、Runx3の点変異はまれにしか起

らないので、癌細胞でRUNX3タンパク質を再び発現させれば胃の腫瘍増殖を遅らせ ることができるかもしれない。

UNX3は癌抑制遺伝子なのだろうか。胃癌細胞でRunx3を安定に再発現させると、 試験管内でも生体内でも腫瘍発生能が低下した。一方、変異型Runx3を発現させ ても腫瘍発生能の低下は見られなかったので、RUNX3タンパク質は癌抑制活性をもつ といえる。Runx3遺伝子欠損胃上皮細胞をマウスに注射した場合も、腺癌形成が 誘導された。

たがって、RUNX3は新しい癌抑制遺伝子で、RUNX3の不活性化が胃の発癌に関与する ようである。TGF-β−RUNX3経路の不活性化が胃癌の進行のための必須条件なのか、 また、RUNX3の不活性化は他の腫瘍の発生にも関係しているのかは、今後の研究の重 要課題である。

doi:10.1038/nrc811

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