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脳腫瘍モデルを得る

Nature Reviews Cancer

2002年5月1日

RB癌抑制遺伝子経路の遺伝子の変異はヒトの神経膠腫でよく検出されるが、これらの 変異だけで癌が引き起こされるのだろうか。マウスの星状膠細胞のRb経路を失活させ ることにより、Terry Van Dykeらは最もよく見られるヒト原発性脳腫瘍の研究にまさ に必要とされていたモデルを開発した。

B情報伝達経路の変異は、ヒトの悪性度IIIとIVの神経膠腫の70〜80%に見られる。神 経膠腫は神経膠細胞から発生する腫瘍で、星状膠細胞由来が最も多い。Dykeらは、星 状膠細胞で特異的に発現される短縮型SV40 T抗原(T121)の誘導型を利用した。 T121は、Rbを優先的に不活性化し、Rbと同じ遺伝子族に属するp107とp130も不活 性化するが、p53は不活性化されない。遺伝子導入マウスは生後7日までに脳室周囲領 域に細胞充実性過剰を発生し、5〜8か月齢までに悪性無構造性星状膠腫で死亡した。 T121の発現と星状膠腫の発生との間の長い潜伏期(100日以上)は、Rbの不活性 化後に悪性転換が起こるにはさらに別の要因が必要かもしれないことを示している。 ヒトの神経膠腫細胞では、アポトーシスを抑制するプロテインキナーゼAKTの活性が 増大することが多く、AKT活性と腫瘍の進行に相関が見られる。Andrew Xiaoらは、遺 伝子導入マウスでは、Aktは72%の星状膠腫で活性化(リン酸化)されていて、Akt活 性化領域ではアポトーシスの度合いが著しく減少したことを報告している。Rb経路が 不活性化されている星状膠細胞は、Aktの調節が異常になるように選択的圧力を加え られているのかもしれない。

質ホスファターゼPtenはAktを抑制する。PTEN不活性化変異は悪性度の高いヒ ト星状膠腫の50%に見られ、RB変異が同時に存在することが多い。Xiaoらは、遺伝子 導入マウスをPten+/-の遺伝的背景で作出すると星状膠腫の発生時期が早まるが、Trp53+/-の遺伝的背景では星状膠腫発生の加速は起こらないことを見いだした。したがって、PTEN特異的アポトーシス誘導経路が欠損していることが星状膠細胞の悪性転換には重要なようだ。この浸透度が高いマウス星状膠腫モデルは、ヒトの星状膠腫に類似の特徴をもっており、病因と治療法の研究に役立つだろう。

doi:10.1038/fake876

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