Research Highlights

すべて(ALL: 急性リンパ芽球性白血病)は接続の紛失から

Nature Reviews Cancer

2003年7月1日

アダプターという器具は、つながっていない物を接続するのに有用だが、アダプターが壊れたりなくなったりするといろいろ問題が生じる。免疫系の調節ではアダプター 分子が重要な役割を果たし、B細胞の成熟と免疫寛容の発達に直接影響している。ところがJumaaらがNature誌に報告したところによると、SLP-65というB細胞特異的アダプター分子の消失は、ある種の急性リンパ芽球性白血病(ALL)の発症に関連する。

LLは子供に見られる最もありふれた癌で、B細胞が前駆細胞(プレB細胞)から成熟 細胞に分化する発生の過程が途中で阻止されて生じることが多い。Slp-65タンパク質 が欠損したマウスには野生型マウスに比べてプレB細胞が多く、成熟B細胞は少ない。 また、このマウスの5〜10%はプレB細胞白血病になる。試験管内で調べると、 Slp65-/-細胞も増殖能力が非常に高いので、SLP-65タンパク質が プレB細胞の増殖を制限し、成熟細胞への分化を促進している可能性が考えられた。 このことを検討するため、Slp65-/-プレB細胞系に野生型または 変異型のSlp-65タンパク質を導入したところ、野生型Slp-65タンパク質だけが成熟B 細胞への分化を誘導することができた。また、免疫系に欠損があるマウスに、Slp-65 変異タンパク質を発現する細胞を注入するとプレB細胞白血病を引き起こしたが、野生型Slp-65タンパク質を注入しても発病しなかった。さて、ヒトのプレB細胞ALLも同じような表現型を示すが、SLP-65発現に同様の欠損があるのだろうか。

umaaらが34人のプレB細胞ALL患者の骨髄を調べたところ、47%の標本にSLP-65発現の 完全な消失または顕著な減少が見られた。このことから、ヒトのプレB細胞ALLがマウ スのSlp65-/-に起因するプレB細胞白血病に類似していることが確認されたが、何がSLP-65発現の減少を引き起こしているのだろう。Jumaaらは逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を利用して転写産物を解析し、SLP-65欠損B細胞はSLP-65遺伝子のエキソン3と4の間に余分の配列をもつ異常 なSLP-65mRNAを発現していることを明らかにした。さらにSLP-65遺伝子のこの領域の塩基配列を解析し、選択的スプライシングによってSLP-65mRNAに取り込まれた場合に、SLP-65タンパク質の読み取り枠を途中で中断させる終止コドンが含まれる2つの選択的エキソンの存在を明らかにした。 Jumaaらの研究結果から、SLP-65タンパク質の欠損がプレB細胞ALLの主要な原因だと 考えられ、この病気を引き起こす機構がわかってきたことになる。

doi:10.1038/nrc1127

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度